季刊まちりょくvol.42
4/62

2 高い舞台で華やかに舞うダンサーを、背筋をただして少し緊張しながら鑑賞する――そんな「クラシックバレエ」に対して抱いていたイメージを、軽やかに塗り替えてゆく千葉里佳さん。今回想い出の場所として挙げてくださったのは、節目となるステージを飾ってきた街なかにたたずむ3か所だ。 一番町の北端、定禅寺通りに面した141ビル(仙台三越定禅寺通り館)の5・6階に位置するエル・パーク仙台。スタジオホールは、千葉さんが3歳のころから続けてきたクラシックバレエの枠を越えて踊り始める、きっかけのひとつとなった空間である。幼い頃から履き続けていたトゥシューズを、履けなくなっても踊り続ける術を考えていた千葉さん。2002年にJCDN主催「踊りに行くぜ」*仙台公演に、コンテンポラリーダンスは未経験ながら選出され、出演した。その会場がここ、スタジオホール。これまでのバレエとは異なる、初めて見る動きの数々。「バレエのテクニックを使わずに踊れと言われ、衝撃でした」。混乱しながらもその世界に魅了された千葉さんは、この公演をきっかけにコンテンポラリーダンスの世界へも足を踏み入れる。とはいえ、「軸足はクラシックバレエですけどね」。ほぼ同時期にBalletCompany~demain~(バレエカンパニー ドゥマン)を結成。毎回の公演会場となったのもスタジオホールだった。「休憩時間に三越へ買い物に行ったりしてね」と茶目っ気たっぷりに当時の様子を話す千葉さん。バレエとしての基礎を持ちつつ、それでいて自由な“笑えるバレエ”を目指し、作品の演出や振付に切磋琢磨した。 様々な活動と並行しながら準備を進めるdemainの公演は、2011年の3月も、6月の公演に向けたリハーサルの真っ只中だった。そのさなかに起きた東日本大震災。長らく途絶えていたライフラインが復旧しはじめてからも、街、劇場、そして人々の心にはその爪痕が生々しく残っていた。会場のエル・パーク仙台も使用できなくなり、スタッフの間では公演の開催と中止で意見が二分。どうしようかと悩みながらスタジオへ行くと、そこには懸命に練習を続けるダンサーたちがいた。「やらないなんて言えなかったですよ」。開催を決意した千葉さんは、スタジオホールはバレエを始めて40年に行った舞台「まだ足りない、」(2015)の公演会場でもあるなど、節目節目を支えてきた。

元のページ  ../index.html#4

このブックを見る