季刊まちりょくvol.41
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40art reviewやんや 子どもの頃、夢中になったもの。誰に言われたわけでもなく、いつの間にか熱中していたこと。そういうものが、時を越え、思いがけず自分を助けてくれることがある。 東北工業大学3年生の五十嵐聖人さんは小学2年生の時、おばあちゃんに折り紙を教わった。小さい頃から手先が器用だったという五十嵐さんは、以来、夢中で折り紙をするようになったという。その時五十嵐さんが教わったのは「かめのこ」という多面体の折り方。1枚の折り紙で作った形を多数組み合わせて、より大きく華やかな作品に仕上げる「ユニット折り紙」の一種である。幾何学模様が組み合わさって美しい立体になるその繊細な設計図は、五十嵐さんの指先と脳に自然と記憶されていった。 9年後、大学生となった五十嵐さんは、建築デザインを学び始めた。しかし設計の課題で行き詰まり、アイディアが出なくなってしまったという。その時、ふと脳裏に浮かんだのが、おばあちゃんに教わった折り紙だった。記憶にあった「かめのこ」の折り方をもとにオリジナルの組み方を考え、できた作品を研究室に持っていくと、思いがけず褒められた。そこから生まれたのが「折り紙照明」である。「これは映える!」とインスタグラムにアップしたものが同級生らに好評を博し、それからは夢中でいろいろな色や模様、形のものを制作。これまでに作った作品は100個ほどあるという。 会場で淡い光を放つ数々の「折り紙照明」たち。一つの作品を作るのに少なくとも50枚、多いものでは120枚もの折り紙を使うという。模様の入った千代紙をわざと裏返して使うことで、明かりを灯すと内側の模様がやんわりと現れる。面と面が合わさる角度の多様さや、和紙の繊維により光が複雑に屈折し、LED電球の無機質な発光を優しく温かな光に変えてくれる。折り筋が浮かび上がるのも美しく、なんとも幻想的な雰囲気を醸し「自分だけの才能」が花開くとき折り紙照明展谷津 智里(編集者・ライター)仙台・宮城で開催された文化事業をレビュー(批評)としてご紹介します

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