季刊まちりょくvol.41
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2 見事な秋晴れの日。何台ものトラックとすれ違い、津波避難経路の案内を矢印とは逆へ進む。旧荒浜小学校を過ぎた先、集合場所である震災遺構の荒浜地区住宅基礎で、髙橋さんはたくさんの資料と一緒に迎えてくれた。35年にわたって記録されてきた写真や図面が収められたアルバム達だ。 まず開いたアルバムに収められていた二枚一対の写真は、宮城野区の高砂地区と蒲生地区を撮影したもの。同じ場所を、何年か経過した後にまったく同じように撮影する。所謂定点観測をとても綿密に行ったものだ。別のアルバムにはパソコンで製図された地図。これは震災後の福島の浪江町、双葉町での撮影に使用しているもので、撮影した箇所を示す矢印が数え切れないほどびっしりと記されている。 「今日は貞山運河沿いに歩いてみましょう」。一冊の鮮やかな赤いアルバムを手に取り、ツアーがはじまる。様々なタイルが痛々しく残る住居跡を横目に少し歩けば、穏やかな日差しのなか、思い思いの場所で釣り竿を構える釣り人たちが目に入る。 海岸公園センターハウス近くの第二旭橋をスタート地点に、運河を南へ。髙橋さんは数歩進むごとにアルバムのページをめくる。住宅をしっかりと囲む屋敷林、運河の名前にぴったりな沢山の舟、大きな“酒”の看板文字が目を引く商店――次々と現れる、暮らしの息遣いが感じられる写真の中の景色と、ひたすらに明るく、抜けるように広がる目の前の景色は一見まったく別の場所だ。よくよく覗いて、川の形や橋の色、道の曲がり方などのわずかな共通点にようや

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