季刊まちりょくvol.41
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13 この10年を振り返れば、東日本大震災で始まり新型コロナウィルスで終わるということになるだろうか。もちろん、いまなおウィルスは世界中で猛威をふるっている西大立目祥子(フリーライター)へ1本の電話がありました。 「チケットを買っていたんですけど、開催しますか?」 その連絡を受けた時は、自分一人でもその方のために高座に上がるつもりでした。当日は、東京から師匠たちが夜行バスで仙台入り。知り合いの飲食店が場所を貸してくださいました。 そして20人以上のお客様が来てくださいました。 皆さん、笑いたい!と思っているんだ! 楽しいから笑う。だけでなく、笑うから幸せになる。こともあるんだ…。 避難所では落語のあと、お茶っこのみをしました。みんな、話したいことがいっぱいでした。 今も落語会や寄席が終わったあと、お客様がお帰りになる時、可能な状況であれば出口に立ち、ほんの少しではありますが言葉を交わします。(むしろ、それを楽しみにしている方もいらっしゃる?)高座の上での落語はもちろん、出口での何気ない、ほんの少しの会話や、お互いの顔を見るコミュニケーションって大事だな、と感じています。 プロ野球楽天の選手が震災直後のインタビューで、「今、野球は必要だと思いますか?」と聞かれ、少し考えた後、「今は必要ないかもしれません。」と力なく答えていました。 しかし、試合が再開されると、球場で、家庭や避難所のテレビの前で、歓声をあげたり悔しがったり…多くの人の心が動いたのです。 日常の中で、ちょっと心が動いたり、笑ったりできると楽しく暮らせるかもしれない。そんな皆さんに会うために、日々、高座に上がっています。 落語に登場する、少々ぶっきらぼうで、テキトーで、どこか抜けていて、不器用で、でも義理人情に厚く、お人好しでおせっかいで…そんな東北人を演じる時、それは私自身であり、家族や友人であり、馴染みのお客様だったりします。 大きな苦しみと悲しみを知っている分、同じくらい、いや、それ以上の笑いもつくっていきたいものです。 落語を観たときは、おおいに笑って、時には泣いたっていいんです。心が動いた証拠ですから。 昔々、ばあちゃん達が、孫に昔話を語って東北の暮らしや魂を伝えたように、落語という形で、東北を語りつぐばあちゃんになりたいと思って…いたら、既になってた!岩手県遠野市出身。1997年に東北弁を駆使した落語を演じる東方落語に入門。2012年には落語芸術協会・三遊亭遊三一門に入り、高座名を「六華亭遊花」に改める。2018年には第73回文化庁芸術祭優秀賞受賞。アナウンサー、ラジオパーソナリティー、舞台俳優としても活動。

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