季刊まちりょくvol.40
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43い。あと五分。鳴り止まない電話はやがて、非常警報のように劇場全体を襲う。 突然の無音。この非常事態に二人は、もはや悠長に構え出す。待てどこない客。始まらないレセプション。この劇場の時間は、進んではいないのだ。 唯ならぬ閉塞感、漠然とした不安の中、漫然と寝転び、やがてとりとめもなく、「水」にまつわる話をしだす。スクリーンの向こうに透かし見える劇場の外は、今にも雨が降り出しそうだ。舞台上の幻想と、現実の空間とが交錯するような感覚。 この映画館は、一体どこなのだろう。自然の脅威である水、あるいは羊水に満たされた、時間が存在しない空間なのか。 その閉塞感を打ち破るかのように、パンツ一丁に水中眼鏡を装備した五十路の男達が、スクリーンの向こう、劇場の外へと子供が水遊びでもするかのように裸足で飛び出した。ばかばかしい姿が逆に切ない。スクリーンを隔てた一線はきっと、劇場と外、幻想と現実、彼岸と此岸の境界だ。 しばし誰もいなくなった舞台を、私たち生者である観客と、今は亡き映画人とが共に客席から見つめる。 戻ってきた作業着姿の助監督、スクリーンの向こう側に、スリーピース姿の映画監督が現れる。境界を挟んでもなお、お互いは繋がっているのかもしれない。 映画や演劇は、ここにいない人や場所を思い、つなぐ。疫病や災害をも越えて、魂が集う場所が、映画館。そして、劇場。 こんな今だからこそ、劇場への祈るような思いが、宿っていた。〈公演情報〉2020年7月1日(水)~5日(日)会場/せんだい演劇工房10-BOX作/竹内銃一郎 構成・演出/高橋菜穂子出演/松崎太郎 渡部ギュウ音楽/金子勲 舞台監督/わたなべひでお(猫侍) 会場監督/野々下孝(仙台シアターラボ)照明/神﨑祐輝 美術/鈴木悠太 音響/本儀拓(キーウィ サウンドワークス)情宣デザイン/岩谷淳子制作協力/赤羽ひろみ・佐々木一美 配信撮影/クマガイコウキ

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