季刊まちりょくvol.38
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67た作家の故井上ひさしさんとの交流で発想を蓄えたり。古里の母親やなじみのばあちゃんに頼み、ヌードも撮影する。〈いのち〉という作品は、太平洋戦争出兵時の肖像写真とその後の姿を捉えたノンフィクション。隆二が子どものころ、農作業の「たばこ」の時間に戦地から引き揚げてきた大人たちから聞いた話が頭にあった。高齢化する古里の戦争体験者から消える寸前の記憶を引き出し、若い人に見てもらいたいメッセージのある作品となった。その取材から着想を得た〈歳月〉は、隆二の真骨頂と言えるかもしれない。兵士の遺影と老夫婦、鉄かぶとに迎え火を組み合わせた作品。本物の鉄かぶとを歴史民俗資料館から借りてくる念の入れよう。「母ちゃんのぼた餅、食って死にてぇ」。そんな台詞からシナリオを描き、地図や年表に落とし込んで練り上げた。一編の小説を編んだような組み写真は、人のさまざまな記憶を呼び起こし、複雑に結び付け、隆二の世界に誘い込む。 記録は記憶を呼び起こし、記憶は記録の源になる。徳朗と隆二が生み出す作品はメビウスの帯。根っこでつながっているのかもしれない。東日本大震災にも使命感をたぎらせ、写欲が増す2人。源平咲きの梅のように咲かせてほしい、もうひと花。〈展覧会情報〉「ふたりの写真家/佐々木徳朗×佐々木隆二」日時/2019年12月3日(火)~12月8日(日)会場/SARP:仙台アーティストランプレイス〈関連企画情報〉ふたりの写真家「記録と記憶・語り始める風景」日時/2019年12月7日(土)14:00~16:00会場/SARP:仙台アーティストランプレイス出演/佐々木徳朗、佐々木隆二   小岩勉(写真家/聞き手)佐々木徳朗〈百姓日記〉1967年佐々木徳朗〈茅葺き屋根〉1971年佐々木隆二〈歳月〉2015年佐々木隆二〈いのち〉1990年

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