季刊まちりょくvol.38
68/88

66art reviewやんや 根っこが同じ1本の木に赤い花と白い花。春先に不思議な梅を見た。平安時代、源氏が白い旗を、平家が赤い旗を用いたことにちなみ「源平咲き」と言うらしい。そう珍しくない現象というが、はっとした美しさに思わず手を合わせた。 80歳を越えるこの兄弟写真家はどうだろう。「ふたりの写真家/佐々木徳朗×佐々木隆二」展とトークショーを見た。生まれはともに気仙沼市の水梨地区。山と田んぼに囲まれた農家育ちの2人は根っこは同じだが、「源平咲き」のように作品の色が違う。写真を撮る思考やアプローチも対照的に見える。 兄の徳朗の写真は記録だ。宮城県農業高校の在学中に下宿の会社員の影響で写真に興味を持ち、長男として農家を継いでから65年余り、気負いなく古里にカメラを向けてきた。自費出版で『百姓日記』など4冊の写真集にもまとめた。「自分だけ高価なカメラを持ってしまった」。当初、そんな負い目があった。当時は田植えも稲刈りも地域の共同作業。徳朗はみんなで同じ汗を流し、「村の写真屋さん」になっていく。村のガキ大将も、じいちゃんもばあちゃんも、自然で生き生きとした表情で写るのは、時を費やし信頼関係があるから。「うぢほうもおんなじだった」。貧しくも助け合いながら心豊かに生きた農村の原風景は、世代共通のノスタルジーを誘う。しかし記録は時に冷たく、心温まる写真ばかりではない。農業の機械化で地域の結びつきや活気を失っていく高度経済成長期、茅葺き屋根が消え、地域の拠点となる学校すら閉校に追い込まれ、農村が過疎化する時代を写し止めた。 弟の隆二は記憶。仙台で会社務めする傍ら、東北で初めて二科会写真部の会員になる。持ち前の好奇心と発想力で作品を生み出してきた。若い頃に倉本聰の富良野塾に入ろうとしたり、宮澤賢治の世界をと岩手の山中を駆け巡ったり、仙台文学館館長だっある兄弟写真家についてふたりの写真家/佐々木徳朗×佐々木隆二佐々木 浩明(河北新報写真部)仙台・宮城で開催された文化事業をレビュー(批評)としてご紹介します

元のページ  ../index.html#68

このブックを見る