季刊まちりょくvol.38
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2 お正月休みも明け、ようやく街に日常が戻ってきた取材当日は、仙台で今季初の積雪。「めでたいと言うことで頑張りましょう!」と石井さんが紹介してくださったのは、事務所を移して1年になるという長町界隈でした。 まず向かったのが「舞台八幡神社」。毎年欠かさずお正月に御札と社員全員分の御守を求めている、石井さんが大切にしている場所です。舞台の仕事は華やかな一方で、常に危険と隣り合わせ。大怪我をしたり、無理がたたって早世した舞台仲間も少なくありません。「神頼みというわけではないけれど…」と言いながらもスタッフの無事を祈る、石井さんの誠実な人柄が垣間見えます。 石井さんが「舞台の魅力」に憑りつかれたのは高校生の時。母親の影響で幼少時から映画好きで育った石井さんは、ある日寺山修司の映画に出会い衝撃を受けます。見たことのない世界をもっと見たいと、大学進学の春休みに東京の「小劇場 渋谷ジァン・ジァン」に寺山演劇を観に行きました。興奮冷めやらぬまま夜行バスで仙台に帰ってくると、西公園に紅いテントと黒いテントが立っていて、“なんだろう?”とたまたま紅い方に入ってみると、そこには、赤い木馬がぐるぐると飛び回って、水飛沫が客席まで飛んで、天幕が開いて……。演劇って凄い!と一気に心を奪われたと言います。その後、当時よく通った八重洲書房で劇団「十月劇場」のポスターを見ながら店員さんと話をしていたら、たまたま主宰で劇作家の石川裕人さんが来店、文字通り「さらわれる」ように入団することになりました。 定禅寺通の残間ビル4階に劇団が開いた「アトリエ劇場」での上演と並行して、石井さんが夢中になったのがテントでの旅公演。社会の矛盾や闇を鋭く批判しながらも文学性を湛えた表現は、テレビや映画では体感することのできない独特の熱気を帯びていました。とにかく見たことのない、社会の既成概念から外れた表現が面白いと、アングラ演劇にのめり込んでいった石井さんは、大学卒業後しばらくは、劇団での活動の傍ら、初めて出会った舞台のプロ、志賀真さん・智子さんから必死に学んだ照明の仕事や、大道具の仕事をする、といった生活を続けていました。事務所の玄関には真新しい御札、その下には石井さんが各地で集めた招き猫のコレクション。奥州名取郡舞台の地に八幡大神を奉ったことから「舞台」の名がつけられたと伝えられる「舞台八幡神社」。明治時代に蛸薬師堂境内に再建された。

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