季刊まちりょくvol.38
17/88

15 コンクールから半年。2人の若き音楽家の日本国内での活動はすでに始まっています。12月、1月に再来日して協奏曲を披露した二人の演奏を、専門家のみなさんはどのように聴いたのか、コメントを寄せていただきました。提供:ミューザ川崎シンフォニーホール ©青柳 聡シャノン・リーミューザ川崎シンフォニーホール&東京交響楽団名曲全集第152回(12月14日)ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲 第1番 ト短調 作品26 今回初めての共演でしたが、あの若さであの完成された音、もうヴィルトゥオーゾ*になっていますね。リハーサルでは、最初の音からぴたりと気持ちが合って、お互い何をやるかが読めるので、何の打ち合わせをしなくてもその場で通して演奏することができました。こういうことって、なかなかないんですよ。 今もそうであるように、これからもしゃばっけを出さず、純粋に音楽に向き合い、作曲家のメッセージを自分の心を通して素直に聴衆に投げかけていく、そんな音楽家であり続けてほしいですね。 シャノン・リーが東京交響楽団との共演のために再来日を果たした。コンクールから僅か半年とはいえ、この期間での彼女の成長や、日本初披露となるブルッフのヴァイオリン協奏曲第1番が聴けることに期待が高まったのは言うまでもない。 結論から言えば、このブルッフの協奏曲はかなり久し振りに取り上げるとのことだったが、その分フレッシュな感性が横溢する聴き応えのある仕上がりとなった。音楽の造形は、あた東京交響楽団コンサートマスター水谷 晃さん指揮者秋山和慶さん 音楽評論家松本 學さん リーさんのヴァイオリンには、どの時代の、どのような音楽にも対応できる音色と柔軟性があります。今回の共演でも、オーケストラの音を全部感じとって、どこにも歪みがない音楽を作り上げていらっしゃいました。それはお人柄か、頭のスマートさから来るのか(笑)、それが彼女の個性のように感じます。 コンクールの入賞者は同時代の聴衆とともにアーティストへと育っていきます。リーさんが今後の人生の歩みで心が震えるような体験を重ねられ「濃く」なっていくことが一人の聴衆として楽しみです!かもリー自身の素直な人柄がそのまま表れたように自然かつ健康的でとても好感が持てる。音も美しく表情豊か。と同時に、両端楽章のエネルギッシュさや、第2楽章の甘美な抒情性といった音楽のキャラクターの描き分けは仙台のコンクールでも発揮したセンスのよさそのままだ。欲を言うならば、デュナーミク(強弱の差)の幅を広げ、ピッチ(特に重音)の精度を上げること、そしてより確信的な表現へと深めること……これらが今後の課題と言えるだろう。 指揮の秋山和慶と東響によるサポートぶりも特筆しておくべき素晴らしいものだった。6月のリサイタルも実に楽しみだ。*卓越した技術をもつ演奏家。

元のページ  ../index.html#17

このブックを見る