季刊まちりょくvol.38
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 14提供:仙台フィルハーモニー管弦楽団共演者・批評家に聞きました! 2人の魅力チェ・ヒョンロク仙台フィルハーモニー管弦楽団第333回定期演奏会(1月24日、25日)ベートーヴェン:ピアノ協奏曲 第2番 変ロ長調 作品19 ヒョンロクさんの音楽はとても自然で、すっと懐に入ってきます。リハーサルから本番までとても居心地のよい雰囲気でした。第2番は、ベートーヴェンが最初に手掛けたピアノ協奏曲ですが、深い、精神的な世界のある作品です。今回が初めての演奏だと聞きましたが、アゴーギク*も作為的ではなく自然で、頭ではなく心を開いていればこちらもすっと寄り添っていくことができる、そんな演奏でした。特に第2楽章は素敵でした。 ヒョンロクさんはオーケストラの音もとてもよく聴いてくださっていて、柔らかな弦楽器の発音にあわせて音を受け渡ししてくれる、そんなつながりが感じられました。コンチェルトのソリストとしても、とても素晴らしいピアニストだと思います。仙台フィルハーモニー管弦楽団コンサートマスター神谷未穂さん指揮者角田鋼亮さん 音楽ジャーナリスト正木裕美さん コンクールでご一緒させていただいて大ファンになったのですが、今回はまた違う面が見られる、とても楽しい共演でした。上品でおとなしい雰囲気の方ですが、繊細さや強さ、内面にはいろいろな感情をお持ちなんだということが、音楽から伝わってきました。 演奏家として注目したのが、腕の使い方。間近で見ていると、強い音を出す時、鍵盤を叩くのではなく脱力しているんですよね。弦楽器の弓のような仕草も見られて、ヴァイオリニストとしても「参考になるな~」と見させていただきました。 ヒョンロクさんの魅力は、音が感情豊かであること。そうでありながら、どこか冷静に自分を分析しているところもあって、世界トップクラスになれる素質を持っていると思います。 ベートーヴェンの協奏曲第2番で、仙台フィルハーモニー管弦楽団との再協演を果たしたチェ・ヒョンロク。チェはコンクールの時から自分の音楽を表現する術すべに秀でていたが、それはただ自分の“個性”を一方的に印象付けるということではない。今回も繊細なデュナーミクや語りかけるような表現を重ねつつ、聴き手にパッセージごとの聴きどころを紐解いているかのようだった。またオーケストラと親密に対話を重ね、特に第1楽章やロンド形式の第3楽章では生き生きと躍動感に満ちた掛け合いを披露。モーツァルト的な要素を多分に持つこの曲の魅力を存分に伝えた。 アンコールにはリストの「ラ・カンパネラ」を色彩豊かに奏でた。超絶技巧で知られるこの作品の選曲を意外に感じたが、大仰な表現を排した繊細であたたかな表現が、細かな装飾を引き立たせる秀演。6月のリサイタルでも多彩な音色と深い作品理解に裏打ちされた豊かな表現で、ショパンやラヴェルの魅力を味わわせてくれるだろう(1月25日)。*速度法。テンポに微妙な変化をつけて、精彩をあたえること。

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