季刊まちりょくvol.38
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11――演奏者としてのアイデンティティとは? ピアノで自分の技術を見せるというよりは、純粋で繊細な音を出すことを理想としています。もちろん、曲の雰囲気や性質によってさまざまな音を弾き分けなければなりませんが、音色に対する姿勢は本質的に変わらないと思います。――そういえば、予選で演奏されたドビュッシーは色彩豊かな音色がとても印象的でした。 ドビュッシーをはじめ、モーツァルト、ショパン、シューマン、ラヴェル、そしてべートーヴェン……これらの音楽家は演奏しようと思うと手を差し伸べてくれるような感覚があり、自分の音楽性と合うように感じています。――6月のリサイタルでは、今おっしゃったショパンとラヴェルを演奏されますね。 私自身とてもエモーショナルな部分があるのですが、ショパンの作品にも悲しさや懐かしさ、寂しさなどの感情的な表現が凝縮されているように感じます。こうした感情を自分に投影しながら解釈し、演奏したいと思っています。一方、ラヴェルは一番好きな作曲家で、できれば会ってみたいと思うほどです。彼の作品は非常に完成度が高く、中でも高い完成度を表しているのが今回演奏するこの2つの作品ではないでしょうか。どうやって和音や和声を重ねていったのか、その作曲過程を知りたいですし、さらに理解を深めて豊かな色彩感を表現したいと思っています。――今後、どのような音楽家になりたいと思っていますか? 自分が話したいストーリーを伝えられ、音楽を通じて慰めることができるような音楽家になりたいと思っています。個性はもちろん大事ですが、マリア・ジョアン・ピリスやクリスチャン・ツィメルマンは追求する音楽の方向性に共感でき、憧れを持っています。また自分では先ほど挙げたラヴェルやショパンなどの感性がとても合うように思いますが、自分の色とは違う雰囲気を持つ作曲家の作品にも挑戦したいです。――例えばどんな作曲家でしょう? リストやブラームスでしょうか。特にリストは自分の性格とは少し違うのではないかと感じています。ブラームスは演奏する機会にそれほど恵まれなかったこともありますが、曲が重厚で、自分の音とは合わないと思っていました。でも機会があればこれらの作品にも挑戦して、私なりの解釈で演奏してみたいですね。(2020年1月23日日立システムズホール仙台 ビデオスタジオにて)

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