季刊まちりょくvol.37
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8⇒P.10に続く 障がいのある人、特に言葉を使うことが苦手な人にとって、美術や音楽といった非言語の表現はそれ自体が自己表現であり、コミュニケーションです。また、障がいのある人にみられる「こだわり」も、表現のひとつだと私たちは考えています。はじめから「だめ」と止めるのではなくて、なぜその行為をするのか、その人に寄り添い、支えていくことが大切です。そういった環境があれば、最初は無意味・無駄だと思っていた行為が見る人を圧倒する表現に育っていくことがあります。 この公募展では多くの賞を設けていますが、入選や受賞は出展者にとって励みになります。たとえ本人が分からなかったとしても、生活を支えている家族や施設のスタッフが喜んでくれますし、そうすると自ずと本人への接し方も変わっていきます。評価される、認められることが普段の生活の幸福度・充実度の向上に活かされていく、こういったことも公募展の果たす役割のひとつだと考えています。 障がいのある方の「こだわり」から生まれた作品には、私たちには思いもつかなかったような表現や造形があり、その発想にいつも驚かされます。みなさんも、障がいがあってもなくても表現においてはみな同じ、むしろ、障がいがあるからこそできる表現・仕事があるんだ、そのように感じていただけると嬉しいです。 2000年代から村上タカシさんのアートプロジェクトに参加していて、「アート・インクルージョン」の立ち上げにも関わることになりました。アーティストとして障害のある人の表現を見たとき、実は「同志のようだ」と思ったんです。社会的にも、経済的にも認められない、でもやらざるを得なくて表現している、そんなところが似ているな、と。「それなら一緒にやりましょう!」と、2013年にAiでアートを仕事にする福祉事業所「Aiファクトリー」を立ち上げました。ここでは表現欲求を満たすことで「その人らしさ」が保障される場をつくろうとしています。 「アート」と言っても、伝統的なジャンルに収まらない「未だ価値があるかないかよくわからないもの」をひとまず「アート」と私たちは呼んでいます。一見落書きにしか見えないけれど、それが出てきた背景を知ると「気づき」がある、そういった意味では現代アートと親和性が高いのかもしれません。いずれにせよ、アートでも福祉でも、これまでの価値観を問うていくこと自体も大切なことではないかと考えながら、日々仲間とともに活動しています。 アートは社会にあってこそ意味があります。Aiでも、無理やりにでも事業所のアーティストを街に連れ出して、時には怒られたりもしながら地域のみなさんと交流してきました。今後は、Aiファクトリーとして、変わりゆく長町をテーマにした作品もつくっていきたいと考えています。須佐涼子さん(Art to You! 東北障がい者芸術全国公募展実行委員長/音楽療法士)門脇 篤さん(一般社団法人アート・インクルージョン理事/アーティスト)企画者にお話をお聞きしました

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