季刊まちりょくvol.36
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11平吹喜彦さん 景観生態学が専門で、近年は里山・里地を対象に、長い時間をかけて成り立ってきた自然と、そこに暮らす人々の知恵や工夫について研究しています。私が新浜地区を最初に訪れたのは2011年6月でした。震災直後は、変わり果てた沿岸域に立ち入ってよいものか迷いもありましたが、津波で何もかもさらわれてしまったと思われていた海辺に植物が残っているようすを見て、自然の再生のようすを記録することが私の使命だと思い、以来通い続けています。 砂浜、砂丘、運河、そして湿地と、多様な生態系を有するこの里浜で調査を継続させていただくには、地元の方の了解が必要だと考え始めていた矢先、2014年に海岸堤防の話があり、相談にうかがったのが新浜町内会のみなさんとの初めての出会いでした。町内会の力添え、そして行政の理解と工夫があって、自然環境に配慮した復興工事が実現することになりました。新浜のように、蘇りつつある自然のなかに防災のインフラをはめ込んでいくという新しい発想、知恵が、いま問われているのではないかと思います。 新浜には、貞山運河や海辺で遊ぶなかで自然の恵みや怖さを学んだ体験や、貞山運河沿いにクロマツを植栽して災害から集落を守るとともに、ときには伐採して生活の糧にした記憶など、臨機応変に自然とわたりあってきた歴史が今なお息づいています。こういった生活に根ざした知恵を私自身も学びながら、地域の宝物であるこの自然の価値を新浜のみなさんと共有し、発信することで、復興まちづくりに関わっていきたいと考えています。 私は、自ら再生を続けている海辺をより多くの人に見ていただいて、本物の自然ならではの力強さを感じてほしいと願ってきたので、川俣さんの「人々を海にいざなう」という言葉に心を動かされました。新浜の復興まちづくりでは、必ず「みんなの…」という形容詞が用いられます。「みんなの」には、お互いを思いやりながら、自分のこととして前に向かう、といった意味があります。辛いことがあった海辺・里浜だからこそ、こういった活動がつながって大きなムーブメントになっていくといいですね。東北学院大学教養学部地域構想学科 教授南蒲生/砂浜海岸エコトーンモニタリングネットワーク今年5月、貞山運河の護岸を埋め尽くすほどに再生したハマエンドウ。新浜町内会主催の「自然や里浜の暮らしを学び合うフットパス」。現在も各地の専門家が集まり、生態系の回復状況調査を行っている。写真提供:平吹喜彦プロジェクトを通じて出会った方の声

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