季刊まちりょくvol.35
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2 季節外れの雪が降った4月初旬から一転、少し歩くとうっすらと汗ばむほどの暖かさが戻ったこの日の待ち合わせ場所は榴岡公園。満開の桜に彩られた公園の奥から、カメラバッグを肩から下げて伊藤トオルさんが颯爽と現れました。 伊藤さんと写真との出会いは、デザイナーを志して学んでいた専門学校を卒業する時、当時お世話になった方の紹介でたまたま働くことになった写真家・樋口徹氏の広告スタジオ、23歳の時でした。それまでは写真には殆ど関心がなかった伊藤さんですが、スタジオで、ウジェーヌ・アジェ、ロバート・フランク、森山大道、荒木経惟といった写真家たちの「ハードな」モノクロームの写真集を目の当たりにして、一気に写真の魅力に引き込まれていったといいます。樋口さんのもとで写真を学び、1年半後の1987年には写真家を志して独立。知人からの仕事を少しずつ引き受けながら、ますます写真の世界に没頭していきました。 そんなお話を伺いながら、花見客で賑わう榴岡公園から榴岡天満宮の境内を通り抜けて、「仙台コレクション」の記念すべき1点目の撮影場所近辺に到着。このひょうたんの看板が印象的な居酒屋の写真を撮ったのは2000年8月頃、日頃からカメラを携えている伊藤さんが何気なく撮りためていた街の風景の一つでした。撮影後しばらく経ったある日この場所を車で通ると、この建物が突然跡形もなくなっていたことに愕然としたといいます。現実にはもう存在しないのに、写真には確かに存在している。シンプルだけれど、「記録する」という写真の力をまざまざと突き付けられたように感じました。この体験がきっかけとなって、2001年、知人のカメラマン5人に声をかけて仙台の街を記録するプロジェクトを始めました。 1997年には登竜門と言われる写真新世紀優秀賞(森山大道選)を受賞、写真家とし手に持っているのは二代目の二眼レフカメラ。かれこれ25年の付き合いになる。約20年を経て、当時の撮影地点を探す伊藤さん。以前、景はそこからもまた大きく変わっていた。

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