季刊まちりょくvol.34
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近場の温泉にと、初めて休みを取った日の出来事でした。原因は不明のまま。以来27年間、丹野さんはこの場所を訪れることができませんでした。「何ひとつ残っていないね。これではわかんないわぁ…でも面影がなくて助かった。もっと取り乱すと思っていたから」と涙をぬぐい、ホッとしたようなそれでいて複雑な表情。「火事の前にも辛いことがあり、ダブルだったので凹みました。劇団を解散しようと思ったけど、当時40人くらいメンバーがいたのでそれはできませんでした」。その後も仙台の演劇界を支える存在として走り続けてきました。 元稽古場に近い地に100年以上店を構える「梅津酒店」を訪ねてみました。仙台駅東口名掛丁の歴史に詳しい店主の梅津恵一さんは「石の藏」のことを覚えていました。パッと丹野さんの顔が輝き、当時の様子や昔の地図や写真を使って、この街の移り変わりをお話しくださった梅津さん(左)。「ここに歴史があることを知っている者のつとめとして伝えていかなければ」。懐かしいお店の方の話で盛り上がります。「ここで生まれ育ったので、建物よりも住んでいた人たちの顔を思いだします」と梅津さん。「そうですよね。街には人の想いが根付いていますよね」と、どこか吹っ切れたような笑顔の丹野さん。「これからはもう大丈夫、またここに来られます。ありがとうございました」と握手を交わし店を後にしました。3「紙吹雪が好きで芝居でよく使いましたが、お客さんにくっついて、この辺りまで散らばってしまうので、みんなで掃除に来ました」。

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