季刊まちりょくvol.34
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 開催までまだ少し間があります。この機会にぜひ手に取っていただきたい書籍をご紹介します。*出版年は単行本の発行年『幸田姉妹 洋楽黎明期を支えた幸田延と安藤幸』 萩谷由喜子 2003 ショパン 明治の文豪幸田露伴の妹で、音楽取聴掛(現・東京藝術大学音楽学部)の第一回卒業生で音楽留学生第一号となった幸田延のぶと、延の妹で日本ヴァイオリン界の基礎を築き、日本人初の国際音楽コンクールの審査員を務めた安藤幸こうの軌跡を辿った一冊。日本がどのように西洋の音楽を受け入れ広めていったか、先人の苦労を知ることができます。『調律師』熊谷達也 2013 文藝春秋 ピアニストとして名を馳せるも事故により妻を失い、自責の念を抱えながら調律師として歩み始める鳴瀬玲司。亡き妻が持っていた音を聴くと匂いを感じる「共感覚・嗅聴」という特殊な能力を得て、ピアノが放つ「匂い」を頼りに調律を行い、奏者やピアノが抱える声なき声を探り当てていく。雑誌連載中に東日本大震災が発生し、作品は当初の構想から「転調」し、鳴瀬が妻への思いに区切りをつけ、被災地でのボランティア活動を通して再び音楽の喜びを見出すところで終わる。仙台の作家として被災地で書き続けるという、作家自身の強い決意が投影されることになった一冊。『羊と鋼の森』宮下奈都 2015 文藝春秋 ピアノと全く縁のなかった青年外村が、天才調律師の板鳥宗一郎との出会いから調律の世界に足を踏み入れ、音を愛する人々に囲まれながら一人の調律師として成長していく様を描いた作品。音に真摯に向き合い、遠回りしながら「目指す音」を追い続ける外村。彼のたとえる様々な音の表現が柔らかく心に響きます。ピアノと奏者、そして観客をつなぐ調律師という仕事の奥深さに触れることができる一冊。「羊と鋼の森」はピアノの比喩。2016年本屋大賞を受賞。映画化もされ、DVDなどでご覧いただけます。 『蜜蜂と遠雷』恩田陸 2016年 幻冬舎 三年毎に開催される国際ピアノコンクールに挑む風間塵じん、栄えいでん伝亜あや夜、マサル・カルロス・レヴィ・アナトール、高島明あかし石の若き四人の音楽家の成長物語。「音楽の神様に愛されている」者たちが、コンクールを通し切磋琢磨しながら各々の音楽と向き合いその先の世界へと踏み出していく様が描かれます。「世界中、どこに行っても、音楽は通じる。言葉の壁がない。感動を共有することができる」。コンクールに関わるすべての人々の思いが凝縮された一冊で、読了後は実際のコンクールに足を運びたくなるでしょう。直木賞と本屋大賞をW受賞し今秋映画化が予定されています。16読んで楽しむ音楽

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