季刊まちりょくvol.32
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74art reviewやんや 姫子(片倉久美子)は男・明男(キサラカツユキ)と出会う。怪しい風体。姫子の前を急ぎ過ぎようとする明男は、ポケットからシルクのパンティを落としてしまう。姫子は明男を引き留めようと、自らスカートをめくりパンツを見せる。「今日はいているのは、シルクですか?」シルクが二人を結びつける。 なんという出だしだろう。驚く。ところがもっと驚くことに、この突飛な冒頭は、ふわふわと、うきうきと描かれる。そして違和感なくするりと作品世界へ誘っていく。「下着泥棒と露出狂のストーカーですね」と笑う二人。手を触れることさえない精神的な愛が生まれていく。 一方、姫子の姉の清子(岩佐絵理)は、姫子を養うため体を売っていた。明男は清子の客だった。明男は原因不明の病で、めくれた皮膚がナイフのように鋭く触るものはみなボロボロになった。清子の体は明男の皮膚によって刻まれ、深く傷ついていた。 性的虐待や性の商品化の問題など、重いテーマを扱っていた。ぞっとするセリフのリアリティ。しかし、それらの問題を声高に主張するより、今、目の前にある生を必死に生きていた。明男が握っていたボロボロのシルクは傷ついた女性像かもしれない。その明男でさえ、生きにくさを抱えた寄り添うべき存在であった。 劇団鼠は、元TheatreGroup“OCT/PASS”の亀歩とχ梨ライヒによる新生ユニット。今回の公演では“OCT/PASS”に関わりの深いメンバーが多く集まった。その殆どが、現在子育て中。平日の午前中に稽古をし、一年以上かけて本番に臨んだ。また、公演に託児サービスをつけたり、子育て割引を導入したりと、同じ立場のママ、パパを応援する姿勢が表れていた。子育て中だから、と、演劇をやるのも観るのも諦めてしまう人は多いと思う。だが、大変なときこ私を包むあたたかな繭劇団鼠 旗揚げ準備公演『かいこひめ』生田恵(劇作家・演出家 三角フラスコ)仙台・宮城で開催された文化事業をレビュー(批評)としてご紹介します

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