季刊まちりょくvol.31
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2 待ち合わせの地下鉄東西線「薬師堂」駅前。暖かな陽射しに桜が揺れる中、2人乗りの自転車で登場した澤野さん。前の座席にはおかっぱ頭のかわいい息子さん「弦ちゃん」が。今回はご近所にある小さな公園をご案内いただくことになりました。 スタート地点の陸奥国分寺薬師堂の境内は広々と気持ちのよい空間で、毎月8日には「お薬師さんの手づくり市」が立ち、よく訪れる場所とのこと。「おっきい抱っこ(肩車)~」とせがむ弦ちゃん。お父さんと一緒に過ごせるのが、嬉しくてたまらない様子です。 秋田出身の澤野さんは幼いころから舞台に立つことが大好き。高校の演劇部で「高校演劇」を謳歌します。活動の喜びはあったものの、何か物足りなさを感じていた折、秋田県南地区の社会人劇団と高校演劇部合同のプロデュース公演に参加。そこで演劇の持つ豊かさに触れ、世界が広がったといいます。東北大学進学後は学友会演劇部に所属し、2年生の頃からは他の劇団にも参加するように。仙台を代表する劇団の一つだった「きらく企画」の作品「ブラフマン」で小劇場演劇の魅力にはまり、卒業後も演劇を続ける覚悟を固めます。しかし卒業4日後に東日本大震災に見舞われ、決まっていた公演が軒並み中止に。そんな逆境の中、誕生したのが「劇団 短たんきょりだんどう距離男道ミサイル」でした。お金も知識も何もない状況からの立ち上げ。「使えるものはなんでも使ってやろう」の精神で、文字通り自分たちをさらけ出してお客様を喜ばせるスタイル。初志貫徹で7年、押しも押されもせぬ人気劇団になりました。 七郷堀沿いの桜並木の下を歩きながら「おっきい公園に行きたい」と弦ちゃん。「父さんが好きなのはちいさい公園なんだけどなぁ」。澤野さんのお気に入りの公園は、交差点の角や住宅街に埋もれるように存在する小さな所。人から忘れられているような場所に興味や魅力を感じるそう。「例えば、祠ほこらに葉っぱがたまっていること気になる公園の一つで。「今年初めて『さくらきれい』って言ったんです。どれだけ覚えていられるかわからないけど、子どもが初めて言ったことばって感動的ですね」。「多感な時期に、土ひじかたたつみ方巽の〈暗あんこくぶとう黒舞踏〉の写真集に出合い心が振れました。秋田出身の土方の作品から漂うメイドイン東北の空気感が、自分の感性にしっくり合った気が」。その頃から「東北」での表現を考えるようになったそう。

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