季刊まちりょくvol.26
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2 芝居の題材にしたぐらい、まち歩きが好き! という金野さんをお迎えした今回の「まちを語る」。前日までの寒波が去り、取材日(1月中旬)は幸いにして冬晴れに。評定河原を起点としてご近所を一周する散策が始まった。 すぐに金野さんが「今日みたいな雪景色でないと見えないものがあるんですよ」と向かい側の堤防を指し、「あの形、私『雪坊主』って呼んでるんです」。コンクリートの壁に積もった雪が人の形になっていて、なるほど「雪坊主」の名がぴったり。そんなふうに金野さんは自然界のいろんなものに名前を付けるのが好きで、例えば、お地蔵さんがうつ伏せになったような形の河原の石には「嘆き石」、橋が川面に映って朝日にキラキラ輝く様子は「水羽衣」。鳥が好きな金野さんにはスズメとカラスの友達がいて、それぞれ「チャッコ」、「ゴンザレス」と呼んで可愛がっているという。そんなふうだから、「日常が退屈しませんよ。芝居以上に愉快ですね」と金野さんは笑う。 評定河原橋と霊おたまや屋橋を渡り、米ヶ袋の住宅地を抜けて広瀬川べりの道を歩く。この対岸に建っていた鹿ししおち落旅館は東日本大震災で被災して取り壊されたが、その風情ある建物が健在だったころ、金野さんは一度だけ泊まりに行ったことがある。「大きな舞台の仕事が終わった後にゆっくりしたいなと思って。女ひとりって言ったら旅館の人が『え?』って、それで宿帳に書いた住所が近所だからそれも驚かれました(笑)。でも“旅の雰囲気”を味わいたかったのよね」。自分の生活圏を歩き回ってちょっと意外な角度から見ることが大好きという、評定河原に現れる、金野さん命名の「雪坊主」。評定河原橋からは仙台城跡の政宗公の騎馬像が小さく見える。金野さんの自宅ベランダからも眺めることができ、毎朝政宗公と海の方向に向かって一礼してお茶を飲むのが日課だという。米ヶ袋の河原にて。対岸は愛宕山。「太宰治が『お伽草紙』の「舌切雀」の場面設定をこの一帯にしているのよね。自分の生活エリアだから、私それを読んだときすごく嬉しくなって」

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