季刊まちりょくvol.25
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41943年、岩手県水沢市(現・奥州市)生まれ。東北大学教育学部卒。宮城県内の高校に国語教師として勤務する傍ら、歌人、評論家として活動。1966年、文学思想個人誌『路上』を創刊し、現在136号まで発行。1989年から河北歌壇選者を務める。おもな歌集に『美童』(宮城県芸術選奨)、『強こはじも霜』(詩歌文学館賞)、『昔むがすこ話』など。宮沢賢治や児童文学の研究も手がけ、『新美南吉童話論自己放棄者の到達』(日本児童文学者協会新人賞)、『日本児童文学の成立・序説』(日本児童文学学会奨励賞)、『宮沢賢治 東北砕石工場技師論』(宮沢賢治賞)ほか著書多数。震災詠の選を担当した歌集に『また巡り来る花の季節は 震災を詠む』、『震災のうた 1800日の心もよう』がある。佐藤 通雅 さとう みちまさサイカチ沼の北側の遊歩道を進むと、斎勝川(サイカチ沼と月山池を経て下愛子地区へ流れる川)の上流端があり、そのそばに小さな吊り橋がかかっている。佐藤さん一押しの場所だ。 佐藤さんに、短歌はこんなふうに景色を見ながらできるのですか? と尋ねてみた。「はじめはいい風景を歌にしようと思って歩いていたんです。だけど、すぐにはできないんですよ」との答え。そのかわり、と佐藤さんが見せてくれたのは「森の手帳」と表紙に記された小型のノート。ページをめくると、散策中に目にした風景や事物のスケッチと短い文章が記されていた。「歌をすぐ作らないかわりに、こんなふうにメモしたりスケッチしたりして、ためていくんです。時間をおいてから、それがヒントになって歌がぽっと生まれてきたりするんですね。なんていうか、歌になるまでには『醸成期間』があるんじゃないでしょうか」。 たくさんの言葉が無造作に発せられては瞬時に消えていくこの時代に、時間をかけて生まれ出てくる31音のなんと豊かなことか。水辺に身を置いて佐藤さんの話を聞きながら、さまざまな言葉のありようにも思いを寄せたひとときだった。

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