季刊まちりょくvol.25
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ると疲れるから、ここに来てぼんやりとする。そうすると気分が爽快になって原稿書きに戻れるんです」。 この日は紅葉を愛でるにはまだ早かったが、シーズンになると全山が色づき、それが水のおもてに映ってそれは美しいそうだ。そう聞いて、風景にしばし心を委ねてみる。静かだ。風が水面を揺らす。池のほとりに腰かけた佐藤さんが、「こうやって座って水を見ていると、自然は人間なんかいなくても十分やっていくんだなとつくづく思います」。それから、「なんだか人類が滅びた後を見ているような気もしてきますね。自然は人類が消えた後のほうがゆったりとするんじゃないですか」と語る。人類が滅びた後とは少し怖いが、こうしているとそのイメージが腑に落ちてくるから不思議だ。探検は外回りへ。新緑の季節、晴れていれば絶好の探検日和だったが、雨もまた良し。いかにも「隊長」という感じの齋さん。3宮沢賢治の研究者でもある佐藤さん。手を後ろに組み、うつむき加減で歩く姿はどことなく賢治を思い起こさせる。「ここは紅葉もいいですが、雪のときがすごくいい。しーんとしてね。カモの大群が来て冬を越すんです」。真冬には一面に氷が張り、以前は氷に穴を開けてワカサギ釣りをする人もいたという。佐藤さんが散策に携行する「森の手帳」。風景や雲、葉っぱ、木の芽などのスケッチが描かれている。色鉛筆で彩色されたページも。聞けば佐藤さんは「もともと絵描きになろうと思っていた」という。

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