季刊まちりょくvol.25
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13アーティスト 江えぐさ種 鹿かのこ乃子さん 沿岸部の皆さんのヒアリングを読むと、「松林が誇り」といった表現が多く見られます。それは過去の生活の中では風や砂を防ぐだけではなく、葉は大切な燃料となり、その下に生える茸きのこを楽しみに暮らしてきたという、松林との「関わり」の多さがポジティブなイメージに繋がっているのだと思います。『空想のまち』の制作にあたり、この地域の未来図の中に、人々と地域の新しく多様な関わりをつくり、誇れるイメージにつなげていくにはどうしたらいいのだろうと考えました。 この『空想のまち』の登場人物は全員動物です。ユーモラスな動作や表情が足を止めて見ていただくきっかけになればとの思いからです。私が描いたのはフィクションで、いわゆる「未来のまち」です。これまで未来に関する絵というと、科学技術の進歩により人間の生活がより便利になっていくさまが描かれることが多かったですが、震災を経て、私たちが未来へ望むものやその価値観も少し変わってきたように思います。その一つとして、地域に伝わる人々の暮らしや文化の継承、新旧が混在・調和した奥深い魅力の創出があると思います。そこで『空想のまち』では、過去の生活に関するヒアリングデータから特徴的な地域の生活を描いたり、吹き出しで動物にしゃべってもらい紹介するようにしました。その他にもアイディアとヒアリングデータから、皆さんの意識が農やエネルギー、文化やアート、遊びの創造といった「生産」に向いているように感じました。そこから、生産と消費の場が近く、手に負えるスケール感の中で、工夫したり協力し合ったりできるという未来の姿が見えてきました。 最初、この施設はあくまでも「交流館」と言われたときはあまりピンときていなかったかもしれません。作品の制作を進める中で、今何が必要なのかと考えたとき、その地域を離れなくてはならない住民にとって一番大切なものを代わって残そう、伝えようとするこの場所は一つの拠り所なんだと思うようになりました。私の表現を通してメモリアル交流館の思いがより多くの方々に伝わり、住民の方には、どこかにふるさとのようなものを作品から感じ取ってもらえたなら本当に嬉しいです。2016年11月8日から2017年1月9日まで開催している企画展「沿岸部の空想マップー新たな魅力づくり現在進行中-」(P.7参照)で、仙台市が公募した集団移転跡地利活用のアイディアをもとに横4メートルを超える作品『空想のまち』を描いた江種鹿乃子さん。仙台市内でイラストレーション、グラフィック制作の仕事をしています。今回の作品制作では、まず交流館の職員と沿岸部を見て回ったうえで、市民が応募したアイディアの結果を分類して求められている施設・活動を把握し、そこに沿岸部の住民の皆さんからの昔の暮らしに関するヒアリング内容を重ね、具体的に描く内容を考えていったそうです。メモリアル交流館とわたし

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