季刊まちりょくvol.25
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12舞台美術家 大沢 佐智子さん 今回の展示で具体的に再現するのは、仙台東部エリアの住民の皆さんが話してくださった「かつての暮らし」や「まちの思い出」といった「物語」でした。メモリアル交流館の皆さんとは、展示では、その言葉で綴られた「物語」を本を読むのとも違う、空間にしっかりと溶け込んだ形で展開できるといいな、とか、「物語」をリアルな体験として持ち帰れる、身体性を伴った展示空間が欲しいね、という話になりました。また、東部エリアの生活に密接した「いぐね」(風雪から屋敷を守るため、また食料・建材・燃料として利用するために植えられた屋敷林。仙台平野の水田地帯に浮島のように見える。)を知り、今回の展示はこの「いぐね」をモチーフに展開したらおもしろそうだなと考えました。 実際の展示では、「いぐね」に囲まれた展示台の上に、住民の皆さんの「物語」が点在する「緑の浮島展示空間」をつくりました。導入部分でも、どこかのお宅の「いぐね」の脇を通り、ちょっと中を覗き込むような仕掛けをして。住民の皆さんのひとつひとつの「物語」には、手にとって触れていただける、飛び出す絵本のような小さな空間を再現しました。その作業は、「物語」を第三者(舞台の場合は観客)に伝えるための空間づくりという点で、舞台のそれに似ていました。聞書きされた言葉を平面から立体(飛び出す絵本風)に立ち上げることで、そこに小さな空間が生まれ、空気が流れます。展示に足を運んでくださった方に、もしその空気感を体感していただけたのなら嬉しい限りです。 初めてメモリアル交流館を訪ねたとき、職員の方から、ここは「沿岸部の経験・記憶を後世に伝えていく」「かつての現場がもっていた魅力を伝えていく・届けていく」場として動き始めます、という話をうかがいました。その話は今の私にとても響いています。古来、演劇が持ち合わせている役割のひとつがまさにこの行為と重なりますので。舞台芸術に関わる者として、自分のスキルや経験が役に立つ機会があれば、今後もメモリアル交流館に積極的に関わらせていただきたいと思っています。演劇・オペラ・バレエ・ミュージカルなどの舞台美術(おもに装置)のデザインを手がけている大沢佐智子さん。震災後、アートを通じて復興に寄与することを目指し宮城の演劇関係者が中心となって立ち上げた「Art Revival Connection TOHOKU(通称:アルクト)」への参加をきっかけに、継続的に仙台へ足を運んできました。メモリアル交流館では、企画展「夏の手ざわり 秋の音」(2016年7月~10月に開催)の展示空間デザインを大沢さんに依頼。震災という大きな出来事を「知りたい」「伝えたい」と思い続けてきた大沢さんは、今回の展示空間をどのようにつくりあげたのでしょうか。メモリアル交流館とわたし

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