季刊まちりょくvol.24
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15するのか」と質問したときには、「世界中に溢れる暴力に拮抗する、もう一つの重しとして」と語った彼女の毅然とした姿勢に衝撃を受け、井の中の蛙たる自分の浅はかさを猛省した。 ここには書ききれないが、演劇は本当に多くの人と出逢わせてくれたし、物理的にも心理的にも私を遠くまで連れて行ってくれた。そこには大きな学びがあった。演劇は人間という存在を丸ごと、全体として扱うもの。その手つきが好ましいと思う。今振り返ると、母を病いで亡くし失意の底に居た私は、演劇と出逢い、人間という奇跡に触れて息を吹き返すことができたのかもしれない。「芸術がなくても人は生きていける」とも言われるが、芸術によって生かされる人がいることを私は体験として知っている。その確信があるからこそ、芸術の力を何らかの形で社会に還元していきたいと思い、活動している。 人が育つには最低10年かかる。市民文化事業団には「文化の植林」として未来を見据えた長期的な人財育成と場づくりを望む。人と場をなくして文化は生まれないのだから。 仙台市市民文化事業団は発足当初から公共ホールの運営を通じて音楽や演劇などの実演系の文化振興を推し進め、「楽都」、「劇都」としての仙台のまちづくりに貢献してきた。一方、ミュージアムの運営は2003年に指定管理者制度が施行されて以降のことで比較的歴史は浅いのだが、現在では歴史民俗資料館、地底の森ミュージアム、仙台文学館、縄文の森広場、せんだいメディアテークのほか、今年開館したせんだい3.11メモリアル交流館も含めて仙台市が所管する6施設の管理運営を任されるに至っている。 ミュージアムとホールとでは設置目的や業務内容などに大きな違いがあるので、市民文化事業団のような一つの組織で両者を包括的に運営するのは容易ではないはずだ。ミュージアムの市民サービスはコレクションの収集・管理や教育・研究の専門性が土台となっており、専門性の中身も館種ごとに異なっているので、ミュージアムだけでも複数館を束ねるにはバランスのとれたマネジメント力が必要だ。今日までかじ取りを続けてきた市民文化事業団の経営手腕は高く評価されてよいと思う。 仙台にはほかにも博物館や動物公園、科学館、天文台などの市の施設や、県、大学、民間など設置者の異なるミュージアムが多数ある。これらの連携を図るために2009年にSMMA(仙台・宮城ミュージアムアライアンス)が結成されたが、最多数の構成館を受け持つ事業団はここでも牽引役を果たしてきた。今後の課題は、連携を一歩押し進めて「楽都」、「劇都」とならぶ「ミュージアム都市仙台」のブランド形成をいかにしてリードできるかだろう。 昨年SMMAに仲間入りした仙台うみの杜水族館は開館1年目で入館者が180万人を超えた。どの世代にも親しみやすいテーマパーク的なミュージアムならではの集客力だが、シニア層が賑わいを下30年後のミュージアムに向けて新田 秀樹(宮城教育大学教授)札幌市生まれ。宮城県美術館設立準備室、同館学芸員を経て1992年から宮城教育大学美術教育講座。2012年から2016年6月まで仙台市市民文化事業団評議員を務める。

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