季刊まちりょくvol.24
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11 その後、私は転勤で仙台を離れるが、図らずも「第1回仙台国際音楽コンクール」が開催される2年前仙台に戻り、事業団とのお付き合いが再開した。私は専門家ではない立場から、コンクールの関連企画検討のための委員として参加することになったが、委員のほとんどが音楽関係者の中で、どのような企画を提案したらよいのか思案にくれていた。 そんな折、ふと頭をよぎったのが「おもてなし」ということだった。コンクールには国内はもとより海外からも多くの出場者が集まる。出場者は優勝を目指し、予選、セミファイナル、ファイナルと階段を上っていくことになるのだが、次に進めなかった出場者は、早々と仙台を去ってしまう。そこでその出場者に、もう一度演奏する機会をプレゼントしたい、というのが提案の骨子であった。 コンクールとはまったく違う雰囲気の中で、出場者に思う存分演奏していただき、市民はおおいに楽しむ。このような出場者と市民の交流を通して、コンクール出場者に仙台を忘れられない街として心の中に刻んでいただくことが、「おもてなし」の主眼だった。 この試みは出場者にも市民からも好意的に受け止められ、後に「チャレンジャーズ・ライヴ」と名付けられ、現在も継承されている。 思い出話はさておき、市民文化事業団のこれからについて私なりに考えてみたい。設立以来30年、市民文化事業団はそれぞれの時代状況を見据えながら、多岐にわたる事業や企画に取り組み、大きな成果や実績を積み上げてきた。さまざまなタイプの文化施設の運営や、市民文化活動への助成に始まり、この『季刊まちりょく』などでの情報発信、芸術文化・歴史文化に触れる幅広い鑑賞機会の提供、さらには市民とともに取り組んだ創造型の事業まで、「豊かな市民文化の振興」という設立の目的を、十分果たしてきたと言えるだろう。 これからの社会予測など、私などには到底できるはずもないが、「少子高齢社会」を迎えることだけは確かな事実で、そこにヒントがあるのではないかと考えている。 「若い音楽家のためのチャイコフスキー国際コンクール」も「仙台国際音楽コンクール」も若い世代を対象にした事業だが、年齢をさらに下げた新しい文化事業を立ち上げてはいかがだろうか。音楽、演劇、文学、それ以外の分野でもいい。松山市が開催している「俳句甲子園」などは好例であろう。仙台をこれからも生き生きとした都市として存続させるためには、若い力がどうしても必要不可欠だからである。事業団が一丸となり取り組めば必ずや実現できる。それだけの人材もスキルもノウハウも、もう十分持ち合わせているはずだ。  そして東日本大震災から5年。当時生まれた赤ちゃんは5歳、6年生だった小学生はもう高校生になった。当時の記憶の風化を心配する声も聞かれる中で、「RE:プロジェクト」「震災の記録アーカイブ事業」「被災地への芸術家派遣事業」など、派手さは無いがしっかりと取り組んできた事業とあわせ、復興の進捗状況を見据えた新たな事業もぜひ検討していただきたい。 設立30年を迎えた市民文化事業団のこれまでの足跡に敬意を表するとともに、さらなる挑戦を心から期待している。

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