季刊まちりょくvol.23
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2 約束の日はあいにくの雨。このシリーズ23回目にして、はじめて雨天のまち歩きとなった。待ち合わせ場所の宮城県美術館に向かうと、レインコートに長靴姿の齋さんが現れた。「『美術館探検ホンモノ』というのがあるんです。今日は雨ですけど、それをやりましょう」。「探検」……なんてワクワクする言葉!(でもちょっぴり怖いかも?) 齋隊長を先頭に、さっそく探検のスタートだ。 齋さんは、宮城県美術館の開館当初から、教育普及担当として来館者の質問や相談に答えたり、小・中学生の鑑賞学習に対応するなどの仕事をしてきた。数年前に定年退職した後も、週に3日は美術館に出勤している。 「美術館探検」は、幼稚園児から10歳ぐらいの子どもたちを対象に齋さんがおこなってきた、「注意深く、丁寧に、よく見る」練習のプログラムだ。作品を真っ先に鑑賞するのではない。美術館の廊下にある扉を開けて中を見たり、換気口をのぞくことから始まる。真っ暗な換気口に空気が吸い込まれていく様子に、「空気ってこんなに吸い込んだらなくならないの?」と齋さん。そこから、空気は地上何メートルまで存在するのか、その距離は地図に置き換えたら自分の家からどこまでか、といったことを話し、考えていく。「ふだん知っていることを具体的なイメージに変えて、『うわっ!』と思えるというのが美術の仕事なんです」と齋さんは言う。そんなふうに館内や庭を歩き、何気ないものを丁寧に見ることで、探求心や好奇心を全開にして、びっくりする練習を重ねていく。 「今やってきたようなことは、美術館じゃなくてふつうのところでもできる。それで、ある幼稚園の子たちが卒園のときにやってみたのが『美術館探検ホンモノ』なんです」。そこでいよいよ「美術館探検ホンモノ」の外回りに飛び出す。「美術館探検」のひとこま。館内や庭を探検していくうちに、子どもたちの顔は好奇心に満ちた「素の子ども」の顔になってくるという。「小さい人たちって、すごく熱心で、真摯で、本当におもしろい」と齋さん。

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