季刊まちりょくvol.21
5/76

3来て、八木山、宮町、錦町、上杉と移り住み、その後再び錦町に戻ってきたというから、この界隈はなじみのご近所。 ふだんもよく散歩をするという錦町公園では、草に覆われたこんもりした部分を指さし、「あそこにシートを敷いて、寝転がって仕事をしたこともありました」。そのときジュンコさんはある発見をしたそうだ。「私、地平線って見たことがなかったんですけど、寝転がって眺めてみると、あのちょっとだけ丘になっている端のところが地平線のように見えたんです。あ、地平線だ、仙台に地平線があった!って」。いろんな木や葉っぱや木の実、虫の声、鳥の声。休日にはイベントで活気があふれ、平日は人々が思い思いに時間を過ごす。ジュンコさんはそんな公園のたたずまいが好きだ、と言う。  公園を一周するといい頃合いになり、「藤や」へ向かう。「藤や」は創業100年を超える老舗だが、ラーメンやカレー、お団子といったメニューで多くの人に親しまれている。 ジュンコさんは以前から気になりながらも、歴史を感じさせる外観に臆してなかなか入れずにいたが、ある夜、おばあちゃんが厨房で一生懸命洗い物をしている姿に惹きつけられ、その何日か後に初めて訪れる。それをきっかけに通いはじめ、ウェブ上での連載「女のひとり飯」にも「藤や」を登場させた。 連載が本となり、新聞に作者の写真とともに取り上げられた際、数日後に「藤や」を訪ねると、店の皆さんがにこにこして「ジュンコちゃん、いらっしゃい!新聞見たよ!」と迎えてくれた。それまでは「常連客のひとり」だったのが、以来、お店に行けば「ジュンコちゃん」と呼ばれ、店の人たちとすっかり仲良しに。仙台に来てから近所の人と親しくすることはなかったが、「『藤や』さんに行けば『ジュンコちゃん』って呼んでもらえる。そんなふうに人との距離が近くなって、イラストレーターをやっていて良かったと思いました。本が売れたとか評価を受けたというのとはまた違う嬉しいことです」と笑う。錦町公園でギターの演奏をしている男性を発見したジュンコさん。近づいて話を聞くと、若林区から毎日、天気が悪くない限り自転車で40分かけて通ってきているという。「藤や」の前で。「藤や」の冷し中華(一年中メニューにある!)には麺を増量できる「増し」システムがあり、200円増しともなると鉢のような大きな器で登場する。

元のページ  ../index.html#5

このブックを見る