季刊まちりょくvol.21
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15序論  ……われらはいっしょにこれから何を論ずるか……おれたちはみな農民である ずゐぶん忙がしく仕事もつらいもっと明るく生き生きと生活をする道を見付けたいわれらの古い師父たちの中にはさういふ人も応々あった近代科学の実証と求道者たちの実験とわれらの直観の一致に於て論じたい世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない自我の意識は個人から集団社会宇宙と次第に進化するこの方向は古い聖者の踏みまた教へた道ではないか新たな時代は世界が一の意識になり生物となる方向にある正しく強く生きるとは銀河系を自らの中に意識してこれに応じて行くことであるわれらは世界のまことの幸福を索ねよう 求道すでに道である農民芸術の興隆  ……何故われらの芸術がいま起らねばならないか……曾つてわれらの師父たちは乏しいながら可成楽しく生きてゐたそこには芸術も宗教もあったいまわれらにはただ労働が 生存があるばかりである宗教は疲れて近代科学に置換され然も科学は冷く暗い芸術はいまわれらを離れ然もわびしく堕落したいま宗教家芸術家とは真善若くは美を独占し販るものであるわれらに購ふべき力もなく 又さるものを必要とせぬいまやわれらは新たに正しき道を行き われらの美をば創らねばならぬ芸術をもてあの灰色の労働を燃せここにはわれら不断の潔く楽しい創造がある都人よ 来ってわれらに交れ 世界よ 他意なきわれらを容れよ(中略) 1926(大正15)年、宮沢賢治はそれまで勤務していた花巻農学校を退職し、私塾「羅須地人協会」を設立。農耕生活のかたわら、付近の農民を集めて農業や科学、芸術などについて教えました。その際の講義用として書かれたのが「農民芸術概論綱要」です。

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