季刊まちりょくvol.20
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10  1901(明治34)年にパン屋として開業した東京の「新宿中村屋」。“インドカリー”で知られるこの老舗を創業したのは、長野出身の相馬愛蔵と仙台出身の黒光夫妻です。 芸術と文化を愛し、随筆も残した妻の黒光(1875~1955)は、西公園にほど近い「木きまち町末すえなし無」(現在の青葉区立町あたり)に生まれました。 幼い頃から向上心が強く「アンビシャス・ガール」と呼ばれた黒光は、キリスト教の影響を受け、当時の女性としては珍しく、宮城女学校を経て横浜のフェリス女学校、東京の明治女学校に学びます。文学に傾倒しその道を志しますが、やがて挫折し、知人に紹介された相馬愛蔵と結婚。愛蔵の故郷である長野県の穂高に移り、農家の嫁となります。その嫁入り道具がオルガンと一枚の油絵だったといいますから驚きです。 そんな黒光は農村生活に馴染めず、数年で愛蔵とともに上京、本郷にパン屋「中村屋」を創業します。商売経験ゼロながら2人は熱心に働き、1907(明治40)年には新宿に支店を開業。その店がやがて新宿中村屋の本店となっていくのです。 黒光が才能を発揮したのは商売だけではありません。文化芸術への関心が深かった黒光は、若い芸術家たちを支援し、彫刻家 その世界で名をなした人のなかには、伝記や小説にもなるくらい魅力的な生涯を送った方々も多いですが、実は地下鉄東西線沿線にもいるのです、“物語のある生き方”をした人びとが! そのなかから、大町西公園界隈にゆかりのある2人の物語を訪ねてみます。相そうま馬 黒こっこう光実業家・随筆家“この人の物語”を訪ねる ~地下鉄東西線沿線人物誌 ~ 大町西公園駅編左から3人目が黒光。左端ラス・ビハリ・ボース、左から4人目はインドの詩人タゴール。その右隣が相馬愛蔵。(写真提供:株式会社中村屋) ⇒P.8から続く

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