季刊まちりょくvol.18
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23中で佇み、縁に腰掛け、頭から潜り込む。「穴」は絶えず人々の近くにあり、触ることができ、埋もれることが出来るのだ。シンプルな照明、音響で、人々の感情を暖かく包み込むような舞台美術の中でも、この「穴」の存在は白眉だった。 この作品が、「はなして」「あと少し待って」に続く、3部作の最後という。震災後いくらも経たずに書かれ、付いたばかりの生傷を触るような痛みがあった前2作品と比較すると、本作では、傷痕が既に身体の一部となり、触れてかたちを確かめるような距離感で描かれていると感じた。そのためか、人々が傷や葛藤を抱えつつも、どこか安らかで、幸福感があった。 それぞれが傷の在りかを確かめながら、丁寧に生きていく。春になり、まっつんとヨリちゃんに子供が生まれ、小学校の桜を背景に皆で記念写真を撮るラストシーン。生まれたばかりの赤ん坊を抱き、緊張した面持ちで前を向くまっつんの表情に胸が熱くなった。<公演情報>2015年1月23日(金)~26日(月)会場/宮城野区文化センター パトナシアター作:生田恵演出:白鳥英一(鳥屋)出演:瀧原弘子、渡辺千賀子、高橋康太、牧田夏姫(劇団カタコンベ)、山澤和幸撮影/小岩勉

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