季刊まちりょくvol.18
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22art reviewやんや 「まだ、いる?」「まだ、みてる?」 マナさんと呼ばれる女(瀧原弘子)のモノローグから物語は始まった。 長方形の舞台の2つの長辺に、向かい合うように客席が設置されており、舞台中央には直径120cmほどの「穴」。幕開け、その中に彼女は佇たたずんでいた。おそらくこの女性が、誰とも共有されない時間を過ごしているのだと思える。 物語の舞台は、津波の被害をうけた東北のどこか、海に面した町。セリフの中にあちこちの被災地を思い起こさせるキーワードが見え隠れする。地元出身の幼馴染の2人、マナと、民宿の息子まっつん(山澤和幸)。まっつんの妻で、他よそ所の土地からお嫁に来たらしいヨリちゃん(牧田夏姫)は現在妊娠中。3人は、もうすぐ取り壊され公園になってしまう、その町の小学校の校庭にいる。今はそこから海が見えるが、防潮堤の建設が予定されている。 やがて、ヨリちゃんの妹のキタ(渡辺千賀子)が登場する。旧家の跡取り娘だが、親の反対を押し切ってまっつんと結婚してしまったヨリちゃんに、父親との和解のため、里帰り出産を勧めに遥々やって来たのだ。「この町で産む」と決意の揺るがない姉に、子供の頃からのコンプレックスを露わにするキタ。ヨソ者の彼女の視点から、この町の背景が明らかになってくる。津波で父親を亡くした「町の有名人」サクちゃん(高橋康太)。マナも、キタとの会話で被災した小学校の話題に及んだ時、微かに変わる表情から、おそらく子供を亡くしていると推察できる。 ここで、舞台の中央に空いている「穴」に思い至る。場面が変わってベンチやベッドなどの舞台装置が置かれても、「穴」は中央に穿うがたれたまま、時に登場人物が安らかな傷の存在三角フラスコ#42「埋もれて、白い」国久 暁(演出家・劇団無国籍)仙台・宮城で開催された文化事業をレビュー(批評)としてご紹介します

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