季刊まちりょくvol.15
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2 東北各地の民具や仕事着といった庶民の生活史(生活文化)や、仙台七夕の歴史などを研究している近江惠美子さん。仕事柄、多くの土地を訪ね、それぞれに愛着もあるなかで、今回近江さんが歩くのは小学3年生まで住んでいた若林区の南小泉地区。現在、この一帯は公共施設や学校、住宅が建ち並び交通量も多いが、「私が子どもの頃はいちめん田んぼでした。通り沿いに何軒か家はあったと思いますが、車はほとんど走っていなくて、馬車が通っていました」と近江さんは振り返る。 警察官だった近江さんの父親が勤務していた交番や、一家が住んでいた地区を探したが、すでに住所が変わり、開発により当時の面影は何も残ってはいなかった。そんなとき、近江さんが「これは昔からありました」という一本の木を見つけた。現在、聖ウルスラ学院英智小・中・高校の敷地内にある「法ほうりょうづか領塚古墳」にそびえるケヤキの大木である。学校の許可を得て、古墳を見せていただくことができた。以前、この場所には旧伊達伯爵邸(現在は太白区に移築・保存)が建っており、近江さんによれば「うっそうとした森のような感じだった」という。樹齢200年以上のこのケヤキは、その森の中でもひときわ立派な姿を誇り、近江さんの記憶に刻みつけられたのだろう。「田んぼの堀からおたまじゃくしを取ってきておままごとをしたり、おてんばでしたから、堀に落っこちたりもしました」と近江さんが語る子どもの頃の風景は、現在の町の様子からは想像がなかなか難しい。法領塚古墳の頂にそびえるケヤキ。この古墳は7世紀前半頃に造られた東北最大とみられる円墳で、石室も現存する。(注:学校敷地内のため、見学は許可が必要です。)

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