季刊まちりょくvol.15
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26art reviewやんや 「言言」第一回公演作品 東京裁判(極東国際軍事裁判)である。副題には「世界中が、敵だった」とある。周知のようにこの裁判の評価は様々であり、事後法の問題・国際法上の問題・裁判そのものの正当性の問題等いろいろな観点から論じられてきたが、日本人弁護団の奮闘、迷走、葛藤に焦点をあてた作品には私は初めて接したと思う、この着眼点が新鮮だった。 登場人物は日本人弁護団の5人。中央にテーブルとイス5脚があり、そこが弁護人席である。舞台上手側上方が判事席、下手側が被告人席、そして客席側が検察官席という設定。勿論この3者は弁護人たちの目線の先に存在する。 圧倒的に不利・不当な状況下で絶望の裡にありながらも彼らは活路を求めて奮闘する。しかし彼らも一枚岩、一致団結という訳ではない。目指す所は同じでもそこに至るまでの方法論、信条、思惑が交錯し、紛糾する。これは史実上でも同じで、日本人弁護団団長の鵜沢總明(この人物だけが劇中では実名で登場――原西忠佑が演じた)と副団長の清瀬一郎らは「自衛戦争論」で国家弁護を図り、個人弁護を図ろうとする派と対立していたし、さらに国家弁護派内でも鵜沢と清瀬は対立していたという。そのへんのごちゃごちゃ感は作品の中にも十分反映されていて、云って見ればこの弁護団内部の対立、困惑、紛糾、説得、を描いた作品であり、実にここが面白い。滑稽なのだ。余裕のない、切羽詰まったぎりぎりの状況下で真剣にドタバタやっているからこそ見えてくる人間の滑稽さ、おかしみ、そして健気さ。人間てホントこうだよな、と時代を越えて、個別の出来事を越えて共感できる。そして、それは脚本の秀逸さもだが、何よりも役者たちの健闘に拠るとこリアルとフィクションの狭間で―言ことこと言 第一回公演「東京裁判」戸石 みつる(演劇家・俳優)仙台・宮城で開催された文化事業をレビュー(批評)としてご紹介します

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