季刊まちりょくvol.14
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――なぜ今『仙臺郷土句帖』の翻刻を出そうと 思ったのでしょうか? 端的に言えば私自身の「信条」です。『仙臺郷土句帖』は、20年ぐらい前に古書店で8輯と14輯を手に入れ、非常に貴重な出版物だと思いました。私は価値のある希少な資料は、必要とする人たちに公平に行きわたるべきという信念で、研究や出版活動を行ってきました。この「句帖」の翻刻も、その必要性を痛感したからです。 「句帖」が発刊された1941年~46年は、日本が世界を相手に戦争をしたという特別な期間。私の10代前半です。郷土句からはその頃の人々の日常の思いが読み取れます。しかし、句に使われている、その頃のふるさとの言葉を読みこなせる年齢層は、もう少なくなってきました。このことを考え時代の記憶を持つ人のいる今のうちに翻刻し、できるだけ疑問点を少なくして、次世代にバトンタッチしたかったのです。 また、純然たる出版史の中身に入りますが、当時の出版物は内務省による検閲が必要でした。しかし、この句帖は奥付を見るとわかりますが、検閲を通っていないんです。あくまでも想像ですが、軍隊による内閲だけで世に出た極めて少ない例だと思っています。渡邊 愼也 さん1931年仙台市生まれ。勤務の傍ら出版史研究に携わり、“シリーズ宮城の教科書”(宮城県教育委員会刊行『教育宮城』)、“文部省蔵版教科書の地方における翻刻実態~宮城県を例として”(日本出版学会紀要『出版研究』20号、日本出版学会努力奨励賞受賞)、“シリーズ宮城の雑誌”(『仙臺郷土研究』)、“仙臺書林・伊勢屋半右衛門の出版実態”(『日本出版史料』7号)などの論文を発表。2005年、20世紀前半の郷土史料を引き継ぐ“杜の都の都市文化継承誌”『仙臺文化』を、同人13人と発刊。2010年、11号をもって終止符を打つが、引き続きライフワークの“地域情報の共有化とその継承”に取り組んでいる。 特集の最後は、翻刻を手がけた渡邊愼也さんへのインタビューです。出版史や郷土文化の研究と次代への継承をライフワークとしてきた渡邊さんに、『仙臺郷土句帖』翻刻・出版にまつわるお話をうかがいました。13渡邊愼也さんに聞く

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