季刊まちりょくvol.14
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ブックレビュー 翻刻『仙臺郷土句帖』を読む幻の名著『仙臺郷土句帖』の再生早坂 信子(東北学院大学非常勤講師) 仙台の造り酒屋「天賞」の三男に生まれた天江富彌が、仙台方言による川柳、俳句を蒐集し東京で郷土句誌を創刊したのは、昭和16年12月8日の「対米英宣戦布告」を契機としている。『郷土将兵に贈る仙臺郷土句帖』と名付けられた句誌は終戦までの13輯が季刊で発行され、終戦翌年の第14輯をもってその役目を終えた。戦中発行された5万3千冊のほぼ全てが前線の郷土将兵、軍病院、満州開拓の県人会へ慰問のために送られたこともあって世に出ず、渡邊愼也氏による朱色鮮やかな本書翻刻本をもって初めて読むことができた。 驚いたのはその内容である。戦意発揚や銃後の守り、翼賛体制などはまず見つけがたい。ひたすら日常の衣食住を仙台弁特有の言い回しで、詩心や童心あふれる郷土句に仕立てている句ばかりである。昭和17年「釈迦堂の花よりもまづ胡麻の餅」「十粒ほどざらめかけたるテンヨ哉」10⇒P.8から続く昭和18年「たまげした久しぶりなるあづき餅」「わらし達に先にかせろやずんだ餅」昭和19年「決戦の春はあんこもしょっぱがす」「ごまもちも憶ひ出となり曼珠沙華」昭和20年「疎開してみぞれふる夜をドンコ汁」「火がゴッツオウでがすと水洟すすりあげ」と、句を並べてみれば戦時下の生活の変化が手に取るようにわかる。とりわけ巻末に用意された懇切な「略解」が有難く、生粋の仙台弁を話した祖母と寝起きした評者でも、渡邊夫妻の説明なしには味わい尽くせなかった。また「仙臺郷土句帖発刊」と「今次世界大戦」の2つの略年表は氏の近代出版史研究家としての矜持を感じさせる。渡邊愼也氏は東日本大地震の3年半前に、科学的根拠と学説を基に大津波の警告を新聞紙上で発し、評者はその後の事態との符合に震撼させられた。氏の慧眼と実行力の賜物である本書が、この時代に世に送り出されたことの意味をかみしめたい。 翻刻『仙臺郷土句帖』をブックレビュー(書評)でご紹介。筆者は、それぞれの分野で活躍する4人の方々です。ブックレビュー 翻刻『仙臺郷土句帖』を読む

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