季刊まちりょくvol.13
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26art reviewやんや その昔、「十月劇場」という劇団があった。数多くの役者・スタッフを輩出し、のちに「劇都仙台」と呼ばれることになるこのまちの演劇シーンの礎を築いたと言っても過言ではない。遅れて来た私にとっては伝説の劇団である。この『流星』は、1982年に十月劇場の旗揚げ公演として初演された作品で、作・演出は劇団主宰の石川裕人氏。看板役者の一人だった小畑次郎氏はその後四半世紀を経た2007年に自分の演劇ユニット「他力舎」旗揚げのときに再演した。そうして今回、3度目の上演は昨年10月に急逝した石川氏への追悼となってしまったわけだが、盟友への挨拶として『流星』を選んだところに小畑氏のこの作品への愛情の深さが感じられる。 登場するのは星の発見に励む町場の天文学者とその飼い犬、若いセールスマンとの浮気に励む学者の妻。そこに巨大流星が墜ちて来たことをきっかけに、遠い星の女王を自称する謎の女や怪しげな風俗業の男女が現れて、SFかと思いきやあまりサイエンスな風情はなく、松鶴家千とせ、山口百恵、松本零士のアニメや「スターウォーズ」のパロディが入り乱れ、映画「三丁目の夕日」とはまたちがう昭和末期の香りで会場はむせ返る。物語は荒唐無稽(←ほめ言葉)で支離滅裂(←ほめ言葉)、どこまでが脚本でアドリブなのか判然としないほど、役者たちも隙あらばだじゃれや小ネタを差し込んでくる。客席ではきょとんとする若者の傍らで爆笑する大人の声が響く。はたしてこれは演劇なのか、とふと不安になる。 しかし、苦笑失笑を誘うナンセンスギャグの中から、ある瞬間、忽然として壮大な叙景詩が立ち現れるのだからまったく油断ならない。かの犬は満天の星空を謳う。漆星空のかなたから他力舎 特別公演/追悼 石川裕人「流星」伊藤 み弥(演出者、からだとメディア研究室副代表)

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