季刊まちりょくvol.11
7/76

5「声」のアート、その豊かな世界特集11 自作詩の朗読でも知られる詩人の谷川俊太郎さんは、「声の力」と題した文章のなかで次のように書いています。 ロシアかどこかの名優が舞台で背を向けて食事のメニューを読み、観客を泣かせたという話を聞いたことがある。文字を覚え、本を黙読する私たちはともすると声に出された言葉にひそむ意味を超えた力を見落とす。詩・韻文は現代では声を失いかけているが、それを補うかのように歌が巨大な市場を形成していることもまた、声のもつ不思議な力の存在の証しと言えよう。その力を感受する能力を私たちは胎児のころからつちかってきているのだ。わらべうたも昔語りも声にそのみなもとをもち、それは意識と同時にもっと深く私たちの意識下に働きかける。子どものころも、おとなになった今も。――谷川俊太郎「声の力」より(河合隼雄・阪田寛夫・谷川俊太郎・池田直樹『声の力 歌・語り・子ども』2002年、岩波書店) 身近であるがゆえに、ふだんあまり気にとめない人間の「声」。しかし人々は古来から「歌」や「語り」といったさまざまなかたちで、「声」を“芸術”や“文化”と言われるものにまで高めてきました。「声のもつ不思議な力の存在」が、人間を駆り立ててきたからでしょうか。 今回の特集は「声」。ご登場いただくのは「声」のアートの分野で表現活動する方々です。あらためて「声」について考えることで、その豊かな世界を感じていただければ幸いです。

元のページ  ../index.html#7

このブックを見る