季刊まちりょくvol.11
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2定禅寺通のケヤキが芽吹きはじめた4月下旬、せんだいメディアテークのオフィスに鷲田さんを訪ねた。鷲田さんは京都に生まれ育ち、大阪の大学で教鞭をとってきた“生粋の関西人”。仙台との関わりを聞いてみると、「僕は現象学という哲学を勉強しているんですが、現象学を日本に広めた先生方は東北大学哲学科出身の方が多いんです。その先生方の本を読んだり、論文を指導していただいたりして、だから東北大学は『現象学の総本山』だという憧れの気持ちがありました」。また、2007年、大阪大学の総長に就任した折の初仕事が東北大学への出張だったというから、仙台とは学問を通して深い縁があったのだ。2011年3月。東日本大震災発生の2週間後に行われた大阪大学卒業式の総長式辞のなかで、鷲田さんは、阪神淡路大震災の経験を踏まえ「いま、わたしたちができることは、見守りつづけること」と述べた。それと前後して、関西で活躍する文化人や経済人に呼びかけ、「西から東へ精一杯の力を送る」という内容のメッセージを綴り、被災した東北の市町村に宛てて発信した。そして震災から約2か月後の5月4日(水・祝)には、休館していたせんだいメディアテークの一部再開にあたり、「歩きだすために」と題された催しで講演を行った。そのように、鷲田さんは震災後の東北に向けて繰り返し言葉を届けてきた(※)。そこには、現場の人間と対話し、ともに思索する「臨床哲学」の実践者としての「人々に寄り添う」姿勢が示されている。せんだいメディアテークの正面入口にて。館長のデスクはメディアテークのオフィス内にある。スタッフの働く姿や会話を間近にしながら館長の仕事をこなす。

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