季刊まちりょくvol.11
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12◎複雑で多彩な表現能楽の歌謡といわれるものが「謡」です。謡には、登場人物(シテやワキ等)によって謡われるものと、「地じうたい謡」という複数の人物が謡うコーラス的なものがあります。謡には、旋律的な「節ふし」と、せりふ的な語りのある「詞ことば」があります。「節」は旋律的様式のうえから2種に分けられます。その2種の歌い方とは「剛つよぎん吟」と「柔よわぎん吟」であります。「剛吟」は、甲かんグリ、クリ、上(中)音、下の中(下)音、呂りょ音の5段階の音域を持ち、勇壮・爽快・明朗な気分を表現します。「柔吟」は、甲グリ、クリ、上のうき、上音、中のうき、中音、下音、呂音の8段階の音域によって、優美・哀愁・風雅を帯びた気分を表現します。この「剛吟」と「柔吟」を、曲目や場面によって対立させたり交わらせたりして、個々の演目のその部分ごとに決めて複雑で多彩な表現を出していくのです。これらを基本に、美しい正しい日本語、明瞭な言葉を駆使して、曲目の趣きを理解し、品位を高く祝い事を愛でたり、または激しい動的な感情を内に秘めたり、そして静的な詩の世界に浸ったり、さらには緩急・強弱の音質を加えながら曲の物語を解釈し、演ずるのです。面おもて(能面)を付ける場合は、声が面の内にこもりますからなおさら音声を明瞭に発することが必要になってきます。◎稽古で声を出す 能を演ずる能楽師は、世阿弥の『風ふうし姿花かでん伝』にあるように、「幽玄の美」を守るよう日夜修練に努め、真の「花」(能の本質)を求めるために力を注いでいると思います。私もそのような指導者のもとで、長い間教えをいただき、一歩でも近づけたらと励みました。私が稽古を受けたときを思いますと、まず無理に声を出さず、腹と腰に力を入れ十分に息を吸い、そしてのどを開いてその真ん中を声が通るようにして素直に発声す萩原 邦明さん(仙台市能楽振興協会会長)に聞く「謡うたい」の声

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