季刊まちりょくvol.11
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11※1コルラトゥラ…軽く、華やかで最も高い声。リリコ …落ちついた抒情的な声。ドラマティコ…強く表現力 に富む声。※2フェニーチェ歌劇場…イタリア・ヴェネチアにある、 「不死鳥」の名を冠する劇場。ヴェルディの『椿姫』や『リ ゴレット』など、数多くのオペラの初演がなされた。※3オペラ「遠い帆」…支倉常長の生涯を題材に作られ た仙台市委嘱作品(原作:高橋睦郎、作曲:三善晃)佐藤 淳一さん命使ってもなかなか出なくて……。でも半年ほどかけて練習したら、指揮者から「人の声って変わるんだねえ」と言われました。自分では全然分からなかったのですが。今思うと、その本番1週間前にモーツァルトの『レクイエム』の公演があり、そちらのほうが僕のレパートリーなので、『レクイエム』を歌う声を守りながら『トロヴァトーレ』も歌えるようにしておこうということで、声帯や身体の使い方を一生懸命考えてやった結果だったのだろうと(笑)。最初から声を太くしようと思っていたら、おそらく喉を壊していたでしょうね。◎合唱で大事なことは合唱は10人いたら10人の声をできるだけひとつにまとめるものですが、僕は、そうやって合わせた音楽が舞台の上だけでハモるんじゃなくて、客席の耳元でも同じように聞こえないと嘘だという思いがあります。そうなると、歌う人たちが「伝えよう」という意思を発しないと伝わらないのではないかとも思います。まず同じパートの中で音をひとつにするというアンテナを1本立てて、ひとつになったら今度は他のパートとどういう関係になっているかというアンテナを立てる。そこに今度は音楽として伝えるために息を使って、前へ飛ばしていくというアンテナも立てる、というように。4月に、大阪フェスティバルホールで行われたフェニーチェ歌劇場(※2)の来日公演を見に行きました。80人くらいの合唱団がすごく澄んだピアニッシモを出しながらも、ひとりずつの声が通って非常にダイナミックで素晴らしかったんです。今、12月に再演するオペラ「遠い帆」(※3)の合唱団を指導していますが、彼らも60人いたら60人の人格や生きざまが出ていい。「合唱している」という意識も大事ですが、ひとりずつが身体をきちんと使って、自分の思いを聴衆に伝えるという意識もプラスで大事だと思います。 オペラ『愛の妙薬』でネモリーノを演じる佐藤さん1959年福島県会津若松市生まれ。東京藝術大学声楽科卒業。同大学院音楽研究科修士課程修了。宗教音楽のソリストとして各地で活躍するほか、仙台オペラ協会主催の公演に出演。現在、尚絅学院大学総合人間科学部表現文化学科教授。仙台オペラ協会芸術監督・演奏部会員代表。仙台宗教音楽研究会(オルガンとカンタータの会)代表。平成7年度宮城県芸術選奨新人賞、平成16年度宮城県芸術選奨受賞。

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