季刊まちりょくvol.10
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41959年仙台市生まれ。仙台第一高等学校卒業後に上京し、週刊誌の記者や電気工などさまざまな職業を経て作家となる。おもな著作に『ショート・サーキット』(野間文芸新人賞)、『ア・ルース・ボーイ』(三島由紀夫賞)、『遠き山に日は落ちて』(木山捷平文学賞)、『川筋物語』、『鉄塔家族』(大佛次郎賞)、『石の肺』、『ノルゲ』(野間文芸賞)、『芥川賞を取らなかった名作たち』、『往復書簡 言葉の兆し』(古井由吉との共著)など。近著に『還れぬ家』。「河北新報」夕刊(毎週金曜日)に「月を見あげて」連載中。仙台市在住。佐伯 一麦 さえき かずみの月が地上を照らしていたのだという。佐伯さんは言葉を続ける。「町の様子や人々が暮らす環境は刻々と変化していく。けれども、人間が仰ぎ見る月は昔と変わらない。そういう変わらないもののなかでわれわれは生きているということを感じていたいです」月の満ち欠けをあと幾めぐりか数えれば、春がやって来る。海水浴場まで歩き、慰霊の塔に手を合わせる。真冬の海風のなか、その傍らにスズメが数羽飛んできて止まったのを、佐伯さんが見つめていた。帰りぎわ、佐伯さんは暮れかけた空を見上げて「七ななや夜の月が出ていますね」と言った。この日は旧暦でいうと12月7日。震災の日(旧暦2月7日)の夜も、この七夜深沼海水浴場にて。

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