季刊まちりょくvol.10
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3井戸地区を歩く。時折顔を出す太陽が雪原を照らしていた。 井戸地区を後にして、荒浜へ。 「仙台だと、荒浜の深沼海水浴場に行くにはその前に貞山堀を渡らなくてはならない。海に出る前に小さい流れを越える、ということが身体に染みついているから、他の土地の沿岸部に行くと、“急に海が現れる”という感じがします」と佐伯さんは言う。そういえば、島崎藤村は仙台にいたときによく荒浜を訪れたと書いているけれど、貞山堀のことには触れていないね、という話を興味深く聞きながら、貞山堀にかかる深沼橋を渡る。佐伯さんは自著『川筋物語』で広瀬川の上流から下流までを書いたので、次は貞山堀のことを取り上げたいと長年考えてきたという。震災の後、かつての貞山堀の風景はまだ戻ってはいない。「またここを小舟が行き来するようになるといいね」と佐伯さんが言う。貞山堀にかかる深沼橋の上で。昭和10年に完成した深沼橋は、地元の人たちには「ここから堀に飛び込んで泳いだ」という思い出もある、荒浜のシンボル的存在。

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