季刊まちりょくvol.7
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25中で破綻なく演じきれるのか。 あるいは、公演の舞台となる文学館のエントランスロビーの問題。背景画などの大道具、外界との遮断といった演出要素を欠く空間で、「青葉通りがよく見える席に座る。ケヤキの葉をとおった日差しがかすかな緑色に染まって文庫本の文字を染める」といった、伊集院氏の紡ぐことばが生み出す美しい仙台のイメージを表現しきれるのか。 結論から言えば、すべては杞憂にすぎなかった。 詩人・武田こうじ氏の、身体に静かに滲み込んでくる朗読の声。中川佳彦・美樹夫妻が奏でるピアノとヴァイオリンの澄みきった音色。そして清河を流れる絹糸のような佐取氏らの舞踊と、過剰さを削ぎ落とした厳かな構成――。繊細な調和のもとに表現されたその世界は、伊集院氏の原作をただ再構成したというのではなく、観る者が心の中にそれぞれ描き出す小説世界の“原型”を示しつつ、しかし最終的には観る者の想像力によって完成されるよう、入念に練り上げられたものと感じられた。とりわ<公演情報>2012年4月22日(日)開演14:00会場/仙台文学館 1階エントランスホール原作:伊集院静 構成・振付:佐取純子プロローグ:片倉彩萌朗読:武田こうじ演奏:中川佳彦(ピアノ) 中川美樹(ヴァイオリン)舞踊:佐藤裕子 青柳千里 小関りり香 小野亜実 斉かのん 三澤すみれけ、佐取氏はじめ舞踊家たちが無限遠に送る祈るような視線は印象的だった。誇張や修辞ではなく、その視線の向こうに希望という不可視のはずのものが見えてくる、そんな錯覚を抱かずにはいられなかった。

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