季刊まちりょくvol.7
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24 新聞小説は生き物だ。近年の例では、芥川賞作家の柳美里氏が2002年4月から朝日新聞に連載していた小説「8月の果て」が、連載期間を半年延長したすえに、健康上の理由から未完のまま打ち切りになっている。 仙台在住の直木賞作家・伊集院静氏が2010年10月から河北新報に連載した「青葉と天使」も、そうした新聞小説の“生き物性”を感じさせる作品となった。福の神と呼ばれた「仙台四郎」の逸話をもとに、不景気で沈滞が続く仙台に勇気と希望を与える小説を、との思いから書かれたこの作品は、東日本大震災の発生を機に大きく舵を切る。仙台の人びとに寄り添いたいという伊集院静氏の強い思いから、連載開始当初は構想になかった、主人公らが宮城県内で被災する新展開が始まるのである。 このいわば航海中の連載小説「青葉と天使」を原作に、舞踊家の佐取純子氏が構成と振付を行った同名の創作舞踊が、4月22日に仙台文学館で上演された。物語の前半部分を中心に構成したものについては、昨年6月以降何度か公演が行われているものの、震災発生後の展開を含めた“完結編”の上演は初めてだ。 冒頭に書いたような新聞小説の難しさを考えれば、連載中の作品を舞台化するだけでも十分野心的でリスクの高い試みと言っていいのだが、本作の場合、それに加えて、いくつかの大きな困難が伴うことが予想された。 たとえば、「ユーモアを交えて、小気味良いテンポでスリリングに進む」(河北新報、2010年9月30日付)前半部分と「街は食料と水、そして正確な情報を求め、人は寒さと余震に震え」といった激烈な震災の描写が出てくる後半部分がひとつの物語としてつながる作品の世界を、限られた時間の想像力が希望を生むart reviewやんや創作舞踊「青葉と天使」~舞踊と文学、音楽の邂逅~川村 力(編集者)仙台・宮城で開催された文化事業をレビュー(批評)としてご紹介します

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