季刊まちりょくvol.7
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15こちらもレプリカ。太宰治が、仙台に留学していた中国の文豪・魯迅をモデルに描いた小説『惜別』の創作メモ(原資料は個人蔵)。紙のほつれや綴じ穴も精巧に再現されている。初代館長・井上ひさしが、小説『青葉繁れる』を執筆する際に作成したプロット(構成)のレプリカ。原資料も仙台文学館で所蔵しているが、同作が仙台を舞台にした作品であり、井上ひさしと仙台の縁の深さを象徴することから、展示の出番が多い資料のひとつ。そこで劣化を防ぐためにレプリカを作成した。仙台文学館〒981-0902仙台市青葉区北根2-7-1 TEL022-271-3020 FAX022-271-3044〈アクセス〉仙台市営バス・宮城交通バス「北根2丁目・文学館前」バス停下車徒歩5分渡部さんの言葉が印象的でした。 ●デジタルの時代にあって 最近では、作家の執筆スタイルは手書きではなくパソコンで原稿を書いて電子メールで入稿する流れが増えてきていたり、また読書シーンにも電子書籍が普及してきたりといったように、文学をめぐる世界もアナログからデジタルに変わってきています。 そんな時代に、あえて紙資料を収集・保存し、公開していく意味とは? 「書かれている内容を伝えるだけであればデジタルでもいいとは思いますが、直筆の資料にある“生の感じ”には負けます。直筆の資料には、字の特徴や創作の過程といった作家の息づかいが表れています。作品の原点であるそれらは、世の中にひとつしかないもの。そういう“本物”と間近に接するときは心がときめきますし、この仕事の喜びでもあります」と渡部さん。 デジタル化している世の中だからこそ、そういった心を動かされるような資料を収集・保存し、展示・活用して多くの方々に伝える意味はいっそう重くなっていくのではないでしょうか。時代の流れで手書きの原稿が消えてしまっても、文学館での「伝え方は必ずある」という渡部さん。資料に「人(作家)の思い」が込められている限り、その“本物”は見る人に何かを訴えかけるのだと思いました。直筆資料はこのような専用の保存袋や箱で保存されている。

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