季刊まちりょくvol.5
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41940年東京都生まれ。早稲田大学文学部演劇科卒業。「劇団青俳」「発見の会」を経て、1969年、「演劇センター68/69」に参加。1971年には「68/71黒色テント」(1990年に「劇団黒テント」と改称)の創立に加わり、各地でテント芝居を上演。『レ・ミゼラブル』『放浪記』『ウーマン・イン・ブラック』などの舞台やテレビでも活躍するほか、クラシック音楽に造詣が深く、メロディに歌詞を付けて歌うことで知られる。Eテレで放送中の『クインテット』の声の出演(スコア役)でもおなじみ。著書に『斎藤晴彦[音楽術]・モーツァルトの冗談』『クラシック音楽自由自在』『歌う演劇旅行』(いずれも晶文社)。2012年1月には黒テント第73回公演「青べか物語」に出演予定(1/18~29、東京・iwato劇場)。斎藤 晴彦 さいとう はるひこ 「西公園にテントが張られて、芝居が終わって、テントが撤去されて跡形もなくなる。でも芝居を観たお客さんは覚えてるんだよね。記憶の中に幻のテントがちゃんと存在してるんです」。そう語る斎藤さんの背後、少し色づいた西公園の木々に囲まれて、幻のテントが見えたような気がした。市民会館向かいの和菓子店「賣茶翁」にて。「テントやってると1人になりたい時があって、休憩時間になるとよくここに来てお茶を飲んでました」。当時と変わらないという店内で、季節のお菓子とお抹茶をいただく。震災後、「復興」という言葉がよく使われる。しかし演劇にできることは「復興」ではなく、人の心や記憶に存在するものや街を「再現する」ことだ、と斎藤さんは言う。観客は芝居を観るうちに笑ったり泣いたりして記憶を呼び起こし、想像力を醸成して、自分自身で芝居をもっとおもしろいものにしていくのだ、とも。斎藤さんの「芝居は捨てたもんじゃないですよ」というつぶやきが、じんわりと沁みてくる。テントのばらし(撤収作業)の後は必ず磁石で釘を拾っていったそうだ。「子どもが遊ぶ公園だから、釘が落ちてて怪我したら大変だ、って」

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