季刊まちりょくvol.5
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24art reviewやんや 劇場とは都市における人の集まる場のデザインだ。シニア劇団まんざら「結婚披露宴」第2回公演の観劇を通して痛感したのはまさにそのことである。 認知症の介護予防を一つの目的として60歳以上の人達により結成されたこの劇団の公演は、1月の公演に続きこれが2回目。チェーホフの結婚披露宴を題材に、近年シニア劇団のプロジェクトでも幅広い展開を見せる石川裕人の演出。 日常と非日常が共存する震災後の風景。被災地の様々な文化シーンは、否が応でもそのことを乗り越えなくてはならないが、震災をくぐり抜けての活動はその意味でも興味深い。 演劇が認知症の予防になることは様々な指摘があり改めて書くまでもないが、一つの公演として成立させるには、異なる論理が求められ同時にそれらを共有させなければならない。コントロールする力を呼び起こすのである。身体に実感させながら、芝居が練られていく。価値と価値を摺り合わせる作業の連続でもある。 喜劇とは緊張と緩和を意図的につくりだすことでもあるそうだ。冒頭からマネージャーとサブマネージャの掛け合いにはじまり、歯車を回そうとするとどうにも上手く行かない結婚式。時折震災の影が垣間見え、がやがやと話は進み、それぞれの人間関係が解かれては結ばれていく。 初日ではあったが冒頭のぎこちなさは次第にほぐれ、役者一人一人が、一つのチームになっていく。恐らく客席は出演者の親族、友人で占められていたかと思うが、ストーリーの中にそれぞれの自らの履歴を投影するかのように、舞台と呼応する。行方不明だった息子と再会したあたりから、客席も一体となった拍手が大きくなる。 芝居が動く。少なからず、僕自身も心が揺れた。表面的に震災のつらい思い出を忘れようと関係のデザインシニア劇団まんざら第2回公演「結婚披露宴」坂口 大洋(仙台高等専門学校准教授)

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