季刊まちりょくvol.5
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12歳のときに亡くなったのですが、その後社会人になって市役所に入ってから、そういえば外での親父がどんな人だったか全然わからないな、ということに気づいたんです。事業家だった親父はやがて政治面にも手を出して、稽古日以外は家に全然いない人でしたからね。能楽についての話は親父のお弟子さんに聞いたりしているうちに、「あなたもお稽古をしなさいよ」と言われ、ちょこちょこと勉強し始めました。 でもそうやって稽古をしていくうちに、親父が能に心酔した理由が分かるような気がしてきました。謡は美しい日本の言葉で魅力的な文章がたくさんありますし、舞には型があってそのときにはどういう心情をどのように表現するのか。心情と型が合致したときの場面の表現は聴いていて本当に素晴らしいなぁと思います。 私個人のことを申しますと、昭和35年から59年まで木原康次先生に師事しまして、昭和60年から平成18年までは、ご子息の木原康夫先生に師事いたし、能楽における品位とか優雅さを教えられ、その上曲目のそれぞれが持っている繊細な趣きを表すようご指導をいただきました。なかなか大変でしたよ。 そのような経過によって、平成11年に観世流宗家・観世清和家元より名誉師範のお許しをいただいたわけです。 平成16年、流派の振興・発展のためといわれて指導側になりましたが、ご教示いただいた万分の一でもお伝えできているかどうか疑問の状態が続いております。仙台の能楽の現在 今、仙台で能楽を教える資格を持っている方は各流派合わせて60人ぐらいはいますが、習いたいという方は震災のためかぐっと減りましたね。私はカルチャー教室やボランティア活動で謡を教えていますが、会員の中には経験年数が違う方と一緒になる場合もあって、まったくの初心者の方は最初なじめないこともあります。「腹から声を出せばいいんですよ」なんて言っても出しようがないのは当たり前(笑)。私は初心者の方には口伝えでお教えして、だんだんと習得していけば発声ができるようになっていくのではと思います。 現在、市内のホールで能を公演する場合は「置き舞台」という形式の舞台をしつらえています。能楽堂の見けんじょ所(客席)はL字型ですので、演者の動きが平面的にそして立体的に見えるので一段と興味が深まります。仙台にも、私達の積年の夢である本格的な能楽堂をぜひ造っていただきたいとは思いますが、震災復旧が先ですね。オープンしたばかりの能-BOXは開館記念イベントもありましたが、協会でもさっそく「囃子と仕舞の会」で利用させていただく予定です。各流派の方々にも積極的に使っていただきたいというお話をしています。 私達の使命は能楽の振興や普及です。そして、政宗公から続く仙台の能楽の伝統を、次の世代に受け継いで行くことです。2月には市民能楽講座(16ページ参照)を開催しますから、ぜひ多くの皆さまにご来場いただき、能楽に関心をもっていただきたいですね。(2011年10月24日取材)

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