季刊まちりょくvol.4
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26art reviewやんや 新国立劇場地域招聘公演として、仙台オペラ協会制作《鳴砂》(原作:菅原頑、作曲・脚色:岡崎光治)が上演された。昨年の仙台における24年ぶりの再演をベースに、今回は演出補に演劇界から渡部ギュウを迎えて、悲劇で終わらせるのではなく、作品の寓話性を前面に打ち出す形に改めた。そこに東日本大震災の影響があるのは言うまでもないだろう。 海から流れ着き、ジサクとトマ(鈴木誠・遠藤典子)に育てられたミナジ(佐藤淳一)を中心に、海に出てなかなか戻らぬ彼を一心に待ち続けるイサゴ(佐藤順子)と、その姉を気遣うナギサ(工藤留理子)や浜の人々らの暮らしぶりが美しい「鳴砂」の浜辺で展開する。難破船から浜に打ち上げられた漂流物で飢えを凌ぐような貧しい集落という本来の設定を今回の渡部演出では、遠洋漁業で安定した生活が営めるようになった昭和30年代を連想させる時代へとスライドさせた。難破船からの宝物の漂着を願う祭礼(山伏:野崎貴男、虎舞:籾江道子モダンバレエ研究所)にも悲壮感はない。ミナジの導きで、異国の難破船とともに碧眼の娘エテル(横山いずみ)が出現すれば、浜の男たちは「天からの下されもの」に喜ぶばかり。砂浜を汚すこと(=自然破壊)に警鐘を鳴らす浜長(高橋正典)の言葉など彼らの耳には届かない。エテルに強く惹かれていくミナジの様子に嫉妬するイサゴが、エテルの象徴である青い光を奪い去ればエテルは瞬時に消え、彼女を狂おしく追い求めるミナジも行方不明となる。そこではじめて我に返った浜人たちが、砂浜が汚れ鳴砂が鳴らなくなっていることに茫然とする姿は、今の我々日本人そのものだ。このあと黒い男(山田正明演ずるミナジの魂、あるいは年老いた姿)が、現代の人々に迎え入れられて大団円となるのだが、演出と音楽のバランスがまだ不完全で、さらに細部を練り上げる余地仙台が鳴らした現代日本への警鐘、オペラ《鳴砂》平成23年度 新国立劇場地域招聘公演仙台オペラ協会「鳴砂」河野 典子(音楽評論家)

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