季刊まちりょくvol.4
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13とよた かずひこさん絵本作家震災後1週間ぐらいたったころであろうか。知人、友人の安否がつかめず憔悴していた小生の仕事場(東京・高田馬場)に自宅(八王子)にいる女房から電話があった。「今、テレビを観ていたらオトーサンの絵本の“でんしゃにのって”が避難所で読みきかせされていたよ。いやあ、オトーサンの仕事も人の役に立っているんだね」 私「……」どうやらNHKテレビの夕方のニュースで避難所の様子として放映されたらしい。多分、現場に居合わせた保育士さんが即興で子どもたちに読みきかせをしてくださったのだろう。 「はい、おじゃましますよ」と挨拶して電車に乗ってきた行商のお婆さん――、昔、仙石線野のびる蒜駅で見た光景が基になって出来上がった作品だ。ただただ平穏な日常を描いている。6月、毎日新聞から被災地の子どもたちを励ます掌編童話をという依頼があった。『バス佐伯 一麦さん作家 いま私たちは1970年頃の見直しと後始末にあたっているのだと思います。実質的な高度経済成長はもはや期待できない、という流れの中で、原子力発電やアスベストに代表されるような技術革新、効率化、省エネによって、日本は経済成長をさらに無理に推し進めた。そのツケが、震災を経て、いまに至って廻ってきている。 閖上の日和山に登ったときに、港町にはかつて、経験を積んだ日和見の専門家がいて、日和山へ登って雲行きや風向きを調べて天気を占った。震災のさいにも、海に津波の兆候をいち早く見たのではないか……。現代では日和見という言葉はあまりよい意味では使われなくなってしまったが、作家もまた日和見のようなものではないか、と思わされました。 復興に直接役立つというわけではないが、月を友とし、社会からこぼれ落ちてしまう存在に目を配りながら、1970年から何か掛け違いが始まった、ということを冷静に自他に問いかけていきたいと考えています。佐伯 一麦 (さえき かずみ) 仙台市生まれ。週刊誌記者や電気工の勤務の傍ら小説を書き、その後執筆活動に専念。おもな作品に『川筋物語』『鉄塔家族』『ノルゲ』『誰かがそれを』など。当に良かったです。今後は、あらためて感じた命の大切さ、ジュニアオケで弾ける喜びを忘れずに、日々練習していきたいと思います。仙台ジュニアオーケストラ 1990年発足。小学5年生から高校2年生の児童・生徒が団員で、毎年秋の定期演奏会と春のスプリングコンサートを開催している。音楽監督は仙台フィルハーモニー管弦楽団の正指揮者・山下一史氏が、講師陣は仙台フィルの楽団員が務める。須田 聖 (すだ ひじり) 仙台市生まれ。現在高校2年生。小学5年生のとき、ジュニアオーケストラに入団し、ヴィオラを担当。にのって』――主人公ののびる君が閖上6丁目まで出かける話を逡巡しながら書き上げた。とよた かずひこ 仙台市生まれ。絵本作品に『でんしゃにのって』『どんどこももんちゃん』『バルボンさんのおでかけ』『おにぎりくんがね…』ほか多数。おもに東北地方の小・中学生の詩を対象にした「晩翠わかば賞・晩翠あおば賞」の選考委員を務める。でんしゃにのって、バスにのって

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